研究課題/領域番号 |
19K15287
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
笠松 秀輔 山形大学, 理学部, 助教 (60639160)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / 統計熱力学 / ドーピング / イオン伝導体 |
研究実績の概要 |
東京大学物性研究所スーパーコンピュータ共同利用のソフトウェア高度化プロジェクトの課題と共同で、統計物理サンプリングと第一原理計算を組み合わせて熱力学計算を行うソフトウェアフレームワークabICS (ab initio configurational sampling)の開発を進め、フリーソフトウェアとして公開をした(https://www.pasums.issp.u-tokyo.ac.jp/abics/)。
本研究課題では、プロトン伝導体として知られるYドープBaZrO3についてこのソフトウェアを使った解析を行い、プロセス条件ごとのドーパント配置と伝導度の関係について明らかにした。ドーピング濃度が増えすぎると伝導度が低下する現象がよく知られており、その説明として従来は、ドーパントとキャリアの会合効果が持ち出されていた。これに対して本研究では、単純な1対1の会合効果はドーピング濃度が増えることでむしろ低下することを示した。伝導度低下をもたらすのは特定のドーパント配置であることを明らかにし、これを低減するプロセス条件について予測を行った。本研究成果から、一般的に、高濃度ドープした酸化物では、ドーパント配置は完全に不規則になっているわけではなく、ある程度の中・近距離秩序を有することが明らかとなった。このような(不)規則性は物性を大きく左右するため、それを制御することが物質・材料開発で肝要であることが強調される。
また、Yの代わりにScをドーピングした際の計算も開始しており、ドーパントによる挙動の違いが明らかになりつつある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1.第一原理計算と統計物理学の手法を連携させるソフトウェアフレームワークの開発が順調に進み、次年度以降の研究を効率的に進める素地ができた。
2. YドープBaZrO3について計算が進み、プロセス条件ごとのドーパント配置が明らかになり、イオン伝導度の高低の起源が分かってきた。そして、これに関して原著論文を投稿することができた。
3. また、ScドープではYと異なる興味深い挙動が見えてきており、これに関しても原著論文の投稿を準備中である。
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今後の研究の推進方策 |
BaZrO3において、複数のドーパントおよびキャリアを考慮した計算を進める。また、実験家と共同で、他のイオン伝導性固体についても検討する。具体的な計算を通しつつ、高ドープイオン伝導体に関する一般論をも導出し、革新的な高イオン伝導性固体の設計指針を得ることを目指す。
なお、多種のドーパントおよびキャリアを考慮するためには、大量の計算が必要になる。このため、機械学習ポテンシャルを援用することで、計算の高速化を図る。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、セミナーなどが開催できなかったことや、解析用計算設備の検討が予定通りに進まなかったため、次年度使用額が生じた。予定通り、解析用設備の充実や、セミナー謝金などに使う予定である。
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