研究課題
大型放射光施設SPring-8の放射光マルチスケールX線CTを用いて、セラミックスの内部に存在する亀裂状欠陥の3次元構造を高解像度で観察することにはじめて成功した。これらの欠陥は、直径10ミクロン程度の丸い欠陥(I型)、分岐した亀裂状欠陥(II型)、加圧方向に垂直に配向した円形亀裂状欠陥(III型)の3タイプに分類できた。この中でも破壊に起因する大きなII型とIII型欠陥は、それぞれ顆粒(=粉末造粒体)間の境界と中空顆粒内部の空隙から形成される。さらに、常圧焼結で大きな亀裂状欠陥が収縮・消失せず、むしろ、わずかに成長する傾向のあることを見出し、その原因が成形体組織の不均一性による焼結中の収縮速度差であることを示した。以上により、成形過程で欠陥ができないような粉体プロセスを開発することが、複雑形状部材の信頼性向上には最も重要であることがわかった。さらに、製品の強度信頼性を予測する上で不可欠な情報、つまり、欠陥の寸法と形状、配向、分布が取得できた。I型、II型、III型の欠陥の種類に応じて、破壊強度を推定できた。セラミックス材料の平均強度とワイブル係数を測定するには、多数の曲げ試験を行う必要があり、多大な時間とコストを要する。セラミック部品の破壊予測では、実使用環境での応力、熱応力分布を有限要素法シミュレーションで求め、平均強度とワイブル係数から破壊確率を計算する。しかし、複雑形状部品では、部品の角部などで成形体密度の不均一が生じ、残留欠陥の大きさ、形状、方向、数は場所によって異なる。このような空間的な強度分布を曲げ試験で調べるのは困難である。放射光X線マルチスケールCTにより場所による欠陥分布を解析すれば、局所的強度の推定も可能となる。
2: おおむね順調に進展している
SPring-8の放射光マルチスケールX線CTにより、粉体成形と焼結プロセスにおける欠陥形成機構を解明した。これは高信頼性部材製造技術の開発につながる成果である。さらに、部材の局所領域の欠陥分布より強度を予測した。強度の空間分布の把握が可能となり、セラミックスの信頼性工学の技術体系に革新をもたらすと期待される。本研究成果は、国際学術誌に論文発表を行い、プレス発表も行った。以上の理由により、おおむね順調に研究が進展していると考えている。
本研究で得られた知識は粉体成形で生じる内部欠陥を制御し、セラミックス部材の信頼性を高めるプロセス技術を開発することに役立つ。次年度以降は、この放射光X線CT技術をアルミナだけでなく、産業界で幅広く使用されているセラミックス、例えば、低温同時焼成セラミックス(LTCC)、固体酸化物形燃料電池(SOFC)、全固体電池といった積層材料の焼結プロセス開発に展開する。
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