スズ・ニクタイド層を伝導層とする層状化合物の機能性開拓に関する研究を実施した。2017年に報告したNaSn2As2超伝導体(転移温度1.3 K)について、化学組成制御による転移温度上昇を検討し、Na1+xSn2-xAs2において転移温度が2.0 Kまで上昇することを明らかにした(Jpn. J. Appl. Phys. 2019)。さらに、キャリア極性に異方性を示すNaSn2As2配向多結晶の作製に成功した。大型化・加工な配向多結晶を作製したことで、横方向熱電変換材料へ応用が期待されることを示した(Appl. Phys. Lett. 2021)。 関連物質として、SrSn2As2およびEuIn2As2-xPxの熱電特性を評価し、特にEuIn2As2-xPxにおいて高い電力因子が得られることを報告した。x = 0.2の無次元熱電性能指数ZTは773 Kにおいて0.29まで上昇することを示した。SrSn2As2およびEuIn2As2はバンド反転を示すトポロジカル物質であるのに対し、EuIn2P2は通常の半導体であることから、EuIn2As2-xPxがトポロジカル相転移の研究を行う上でも重要な物質となり得ることを示した(ACS Appl. Energy Mater. 2021)。 新物質Li1-xSn2-xP2の合成に成功した。本物質は0.5 Kまで超伝導転移を示さないが、これはスペーサー層のLi/Snの混合占有によって電子構造が大きく変化するためであると考えられる。また単粒子電気化学測定によりリチウムイオン二次電池の負極材料として活性を示すことがわかった(J. Mater. Chem. A 2021)。 以上のように、層状スズ・ニクタイドの新物質を合成し、超伝導、熱電変換、電極材料として興味深い多様な機能を示す物質群であることを明らかにした。
|