本研究では熱電材料における熱磁気効果と電流磁気効果の測定により,高ゼーベック係数の発現機構を解明することを目的としており,当該年度にはバルクとナノワイヤーにおける評価と解析を行った. バルク材料においては磁気ゼーベック効果とネルンスト効果,磁気抵抗効果,ホール効果,および熱伝導率の磁場依存性を評価した.材料にごく微量のキャリアドーピングを行うことでネルンスト係数が大きく変化することを解明した.一般的に,ネルンスト係数は散乱機構によって決定されることから,ゼーベック係数と散乱機構の関係を評価することができる.しかしながら,ビスマスのような電子と正孔の複数キャリアを持つ材料においては,ネルンスト係数が散乱機構だけでなくキャリアの電気伝導度比にも依存することから,各キャリアの電気伝導度を考慮しなければ散乱機構を決定できないことを突き止めた. 一方,ナノワイヤーにおいては4Kから300Kの間で磁気ゼーベック効果と磁気抵抗効果の測定を行い,さらに低温におけるシュブニコフ・ド・ハース振動を評価した.その結果,散乱機構が変化すると考えられる領域でもバルクと同様のゼーベック係数の温度依存性が得られたことから,キャリアの散乱機構の変化がゼーベック係数に与える影響は限定的であることがわかった.ナノワイヤー界面におけるキャリアの散乱のエネルギー依存性は,通常のバルクにおける散乱のエネルギー依存性と同様となることはモデル計算によっても示されており,そのことを実験的に確認することができた.
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