研究課題/領域番号 |
19K15301
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
國本 雅宏 早稲田大学, 理工学術院, 講師(任期付) (60619237)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | Si電析プロセス / イオン液体 / 量子化学計算 / ラマン分光法 / ナノ構造体 |
研究実績の概要 |
本研究は、電気化学的安定性の高いイオン液体を電解液に用いて、標準電極電位が卑であり通常の水溶液系からでは還元析出困難なSiを太陽光発電デバイス用薄膜として電極基板上に形成する電解析出プロセスを開発する。ここでは理論化学計算の手法や分光計測の手法も援用することによって、Si前駆体の還元反応機構の分子レベルでの解析にも取り組み、その知見に基づく合理的な指針の下プロセス設計を行う。電解液にはtrimethyl-n-hexyl ammonium bis (trifluoromethylsulfonyl)imide(TMHATFSI)を、Si前駆体にはSiCl4をそれぞれ用いる。プロセス設計では、主に電圧印加波形、温度条件、対流条件、を最適化する。 今年度の検討では、密度汎関数法(density functional theory,DFT)を用いた理論計算解析とラマン散乱分光測定による、SiCl4前駆体の還元反応機構、及び析出Si膜中への不純物の混入機構の解析に取り組んだ。加えてそれらを基にした電析条件最適化の予備検討まで着手することができた。 まずSiCl4は2電子を授受後、近接する別のSiCl4と安定な二量体を形成することが示唆された。この中間体は分光測定でも観測され、知見が理論-実測両面から確かめられた。その後二量体はさらなる電子授受によって多量体化し、徐々に基板に析出するようになるが、計算解析で得られたイオン液体の分子中の各結合エネルギーから判断して、イオン液体分子はこの過程で、分子の状態で不純物として取り込まれると考えられた。このことは、析出のための電圧・電流印加時間の最適化の必要性を示唆している。 この知見に基づき、電析条件の中でも電圧印加時間の最適化に着目した電圧パルス波形制御の初期検討に取り組み、数秒単位の比較的長い印加時間で薄膜特性が向上することを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度は、当初の目標を達成し次年度の研究につながる成果を創出することに成功したため、順調な進展と判断した。 研究開始当初、2019年度は析出Si薄膜への不純物混入機構を、計算化学的理論解析及び分光計測を通じて理論-実測の両面から分子レベルで解析することを目標としていた。またそれにあたり理論モデルの構築や分光セル開発に取り組むことを計画として挙げていた。理論モデルの検討では、クラスターをベースに構築したSi表面モデルの適用によって、計算コストを抑えつつ必要な計算精度を確保できるようなモデル構築を達成した。分光セル開発では当初予定にはなかった設計も行い、計画当初想定したものよりも測定に適したセルの構築を達成した。当初はAuやAgなどプラズモン活性の高い金属ナノ粒子を蒸着などで表面に修飾した直径2.5 mm程度のマイクロレンズを、ラマンシグナル増強用のセンサとして用い、それを実装した分光セルをSi電析プロセスの解析用に構築、応用する計画としていた。このシステムの大きな利点は、プラズモン活性を示さない電極を含むあらゆる電極に対して前処理なしで表面増強ラマン散乱分光法が行える点である。設計を進めていくと、マイクロレンズをセンサ担体として用いるよりも、ガラス平板を担体として用いた方が精度の高い分光測定を行えることが明らかとなり、その知見を基に設計を改め新規なセルを開発することに成功した。 さらにこれらの基礎解析によって、Si前駆体反応機構や不純物混入機構に関する分子レベルの知見を得ることができたため、それらを基に電析プロセスの最適化に着手した。プロセスの条件最適化は当初、2020年度から開始する計画としていたが、モデル構築や計測セル改良、そしてそれらを用いた解析を円滑に行うことができた結果、予備検討ではあるものの2019年度の時点でその検討に着手することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は当初の計画通り、電析条件の最適化と微細構造Si形成に取り組む。電析条件の最適化では、A. 電流・電圧値及び波形、B. 浴温、C. 対流条件に着目するが、特にA. 電流・電圧値及び波形に関しては、副反応制御の観点から電圧パルス電解に着目しており、したがって電圧値とそのパルス波形を検討する。このパルス電解は、定常的に電圧や電流を印加する通常の電解とは異なり、数十msから数sほどの短期的な電圧・電流印加を周期的にかけていくプロセスであり、そのような短期的印加をかける時間幅、いわゆるon timeと、印加のない時間幅、off timeが交互に訪れる。このon time とoff time の設定を、分子レベルの学術的知見に基づいて検討し、波形を最適化することがこの研究の一つの大きな特色であり2020年度はこの最適化に取り組む計画である。2019年度における予備検討の結果、数秒程度のon time で従来膜の1.5倍のSi純度の膜が得られることが明らかになっているが、膜の平滑性やSi純度のさらなる向上に向けて、on timeとoff timeのバランス、いわゆるデューティー比を一層追い込んで最適化する必要がある。これまでに得られた知見に基づいて検討し、イオン液体分子が膜中に混入しないような off time の工夫を計画している。 B. 浴温,C. 対流条件については、電解セルの再構築を通して最適化する。特にC. 対流条件の最適化においては、新規な電解セル設計を通じて強制対流をかけられるセットアップを組むことで、物質移動過程を制御し前述のパルス電析の環境をさらに最適なものに整える。この新規電解セルの設計は、予備検討の一環として既に2019年度に着手しておりセル構築の目途は立っている。そうしたプロセス設計に取り組んだ後、ナノインプリント法などを駆使した微細構造形成に取り組む。
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