本研究は、太陽光発電デバイスに供する高純度Si媒体を形成可能とする新規な電解還元析出(電析)プロセスを開発するものである。またその合理的開発のため、量子化学計算などの理論的解析手法や、表面増強ラマン散乱(SERS)法などの分光計測手法を駆使したSi電析反応機構の基礎解析に取り組み、それに依拠したプロセス設計を目指すものである。電解液には非水溶媒であるイオン液体を、Si前駆体にはSiCl4をそれぞれ用いる。 昨年度の研究では、密度汎関数法を用いた理論化学計算によるSi前駆体の還元反応機構、及び溶媒種の分解反応の解析を通し、析出されるSi薄膜への不純物混入機構の解明に取り組みつつ、その実測実証に用いるSERS計測用の電解セルを新たに設計した。今年度はそれらの知見に基づき実際のSERS計測に取り組むと共に、それら基礎解析に基づく、印加電位波形、温度条件、対流条件、などの条件設定を最適化したプロセスの調整を進め、電析Si薄膜の純度向上を図った。 SERS計測では、昨年度開発したSERS用新規電解セルの改良を進め、その完成を以って実際の計測に供した。その応用としてのSERS計測の結果、理論計算で予想された中間体物質の実測に成功するとともに、溶媒分子構造に大きな変化がないことを確認し、昨年度理論計算から導出された反応機構、及び不純物混入機構を支持する実験データを得るに至った。この知見を基に電析プロセスの条件調整を進めたところ、昨年度導出された最適電位波形を印加しつつ、反応系を高温化することが、薄膜中におけるSi純度向上に大きく寄与することが明らかになった。このことを踏まえて実際の電析反応を試みたところ、従来の結果の中でも最高純度のSi薄膜を得るに至った。また、強制対流が析出表面の平滑化に有用であることも示唆され、実際のデバイス適用も視野に入れたSi薄膜形成手法が構築された。
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