研究課題/領域番号 |
19K15302
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
平田 研二 国立研究開発法人産業技術総合研究所, エレクトロニクス・製造領域, 研究員 (40828282)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 第一原理計算 / 状態図 / 圧電材料 / 薄膜 / 窒化物 |
研究実績の概要 |
Sc添加AlN固溶体の薄膜は高い圧電性能を有し、モバイル通信用の高周波フィルタに利用されている。ここではScの添加量に応じてwurtzite相を安定に得られるかが材料設計上の課題となっている。ゆえに、wurtzite相の熱力学的安定性は圧電特性の制御において重要な知見を与える。一般に薄膜における添加元素の固溶挙動は、基板との界面に生じる歪エネルギーや表面エネルギーなどの影響を受けるため複雑である。本研究では、このような薄膜材料固有のエネルギーを第一原理計算や統計熱力学手法により評価する。これにより薄膜の相平衡を計算する熱力学データベースの構築を行う。 令和元年度はAl-Sc-N 3元系の熱力学解析を実施した。Al-Sc-N 3元系の相平衡は実験報告が少なく、これまでに熱力学データベースも整備されていない。そこで、第一原理計算やデバイグリュナイゼン近似をCALPHAD法に援用することで、相平衡を計算し実験報告と比較した。本研究で構築した熱力学データベースより計算した1000℃のAl-Sc-N 3元系状態図は、Schusterらにより報告されている実験状態図とよく整合していた。また、50mol%N断面のwurtzite相において、Scの固溶挙動を調査したところ2相分離することが判明した。しかし薄膜の実用材料では、wurtzite相にScは20mol%程度固溶することが知られており、計算結果と整合しない。そこで、AlNの基板上に(Sc,Al)Nの薄膜が形成した状態を仮定して、基板と薄膜の間の歪エネルギーを算出した。その結果を熱力学モデルに反映させ相平衡を計算したところ、薄膜の膜厚が薄くなるほど2相分離挙動が抑制されることが確認された。したがって、薄膜の実用材料でウルツ鉱相にScが多く固溶する要因の一つに薄膜と基板の間の歪エネルギーが影響していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Al-Sc-N 3元系の熱力学データベースを構築することができ、実験報告と整合性が確認され、当初予定していた研究成果が得られたと考えている。さらに、基板と薄膜の間に生じる歪エネルギーを第一原理計算で求め、生成エンタルピーに反映させることでwurtzite相の2相分離を抑制する挙動を見出した。この成果はSc添加AlNの薄膜における相平衡を考察する上で、重要な知見を与えることができた。
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今後の研究の推進方策 |
令和元年度ではwurtzite相の薄膜に注目して熱力学的な評価を実施した。令和2年度では、wurtzite相と競合するrock salt相についても同様の評価を実施する計画である。先行研究の文献によると、バルクと異なり薄膜に作用するエネルギーとして、特に基板との界面に生じる歪エネルギーが相平衡に大きな影響を与えることがわかっている。そこでrock salt相における歪エネルギーの計算に注力する予定だが、これには予め臨界膜厚を知る必要がある。今年度はまず、第一原理計算でSc添加AlNにおけるrock salt相の臨界膜厚を求める方法を確立する。その結果を歪エネルギーの計算に利用する方針である。 また最近、AlNにCrやZrを添加することで圧電特性が向上すると第一原理計算で報告されている。そこで、Sc添加AlNの薄膜における熱力学的な評価を、同様にCr添加AlNまたはZr添加AlNに適用する。ここでは第一原理計算に要する時間的コスト等を鑑み、いずれかの物質を進捗状況に応じて選択する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
計算機購入にあたって当初、予定した価格よりも安価に購入することができたため、予算使用額が抑制された。また学会発表に際して、開催が中止になり旅費の出費が抑えられた。 次年度の使用計画として、臨界膜厚の計算に数式処理ソフトが必要になったため、その購入に割り当てる予定である。また、外部機関の大型計算機の利用料金の支払いにも使用する。
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