研究課題/領域番号 |
19K15303
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
濱田 真行 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 和泉センター, 主任研究員 (90736282)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 鉛フリーはんだ / 熱疲労 / 高温変形 / クリープ / 累乗則崩壊応力 |
研究実績の概要 |
接合信頼性の観点から、はんだ接合部の熱疲労破壊の抑制が求められている。熱疲労破壊は、熱応力によるはんだのクリープ変形により発生する。よって、熱疲労破壊の抑制には熱応力によるはんだのクリープ変形量の低減が必要となる。本研究では、クリープ変形量への影響が予想されるクリープ変形機構および累乗則崩壊応力に注目し、これらの因子が熱疲労破壊の発生率に及ぼす影響の解明を目的としている。 本年度は、Au、Bi、Ga、In、Sbを添加したSn基二元合金の高温引張試験を実施し、各合金のクリープ変形機構と累乗則崩壊応力を調査した。合金元素の添加量はSnへの最大固溶限を超えない範囲とし、9種類の合金(Sn-0.01wt%Au、Sn-0.05wt%Au、Sn-1wt%Bi、Sn-3wt%Bi、Sn-0.5wt%Ga、Sn-1wt%Ga、Sn-0.5wt%In、Sn-1wt%InおよびSn-0.2wt%Sb)に純Snを加えた10組成について高温引張試験を実施した。 試験条件は、温度125℃でひずみ速度は1.0×10-1~1.0×10-5s-1の範囲とした。高温引張試験により得られた真応力―真ひずみ曲線から各ひずみ速度での変形応力を調査した。各合金の変形応力は合金元素の添加により上昇し、その上昇率(合金元素の添加量に対する変形応力の上昇量)は合金元素種ごとに異なることが分かった。 変形応力とひずみ速度の対数プロットより得られる直線の傾きから応力指数を解析した。調査したすべての合金の1.0×10-4s-1付近の応力指数は5~7程度となり、転位の上昇運動律速のクリープ変形で認められる応力指数と一致することが分かった。また、複数の合金で応力指数の上昇(累乗則崩壊)が対数プロットの高応力側で認められた。累乗則崩壊応力を数値として推定するためには追加の高温引張試験が必要と考えており、次年度に実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、Sn基二元合金の高温引張試験を実施し、各合金のクリープ変形機構と累乗則崩壊応力を明らかにすることを目標にした。相当数の高温引張試験が見込まれたことから、年度当初に高温引張試験の効率的実施を目的として高温引張試験機の移設を実施した。移設に時間を要したこともあり高温引張試験の開始が遅れたが、当初計画通り10組成の高温引張試験を実施することができた。 高温引張試験により得られた真応力―真ひずみ曲線から変形応力を求め、変形応力とひずみ速度の対数プロットより得られる直線の傾きから応力指数を解析した。調査したすべての合金の1.0×10-4s-1付近の応力指数は、転位の上昇運動律速のクリープ変形で認められる応力指数と一致することが明らかになった。 変形応力とひずみ速度の対数プロットより得られる直線において、高応力側で認められる傾きの上昇が累乗則崩壊である。各合金の対数プロットを解析した結果、複数の合金で累乗則崩壊が確認された。傾きの上昇が起きる応力が累乗則崩壊応力であるが、高温引張試験を実施したひずみ速度の刻み幅が大きかったため、現段階では幅を持った値として推定されている。数値として推定するためには追加の高温引張試験が必要であり、次年度に実施を予定している。 以上より本研究は当初計画にそって進んでいることから、本年度の進捗状況はおおむね良好と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度からは熱衝撃試験による接合信頼性の評価を開始する。本年度、クリープ変形機構を調査したSn基二元合金の中から複数種類を選定して糸半田を製造し、電子部品をプリント基板にはんだ付した実装基板を製造する。その後、低温と高温の温度負荷を繰り返し付与し、熱疲労破壊の発生率(熱疲労破壊が発生した接合部数/全接合部数)を調査する。 熱衝撃試験の試験条件は「-40℃⇔125℃」、「500~1000サイクル」を予定していたが、熱疲労破壊の発生率の差を比較するのに適した条件であるかは不明である。そこで、上述の試験条件にはこだわらず、温度範囲とサイクル数は適宜調整する予定である。また、合金間の熱疲労破壊の発生率の違いを解釈するためには、各合金のクリープ特性に関する情報が重要になる。そこで、本年度高温引張試験を実施した125℃とは異なる温度でも引張試験を実施し、活性化エネルギーなどを解析する予定である。 125℃以外での引張試験は当初計画になかったため追加費用(消耗品費および試験片加工費)が必要となる。新型コロナウイルス感染症の拡大により中止となった国際会議の参加費や旅費を追加費用に充当する予定である。
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