接合信頼性の観点から、はんだ接合部の熱疲労破壊の抑制が求められている。本研究では、はんだのクリープ変形機構および累乗則崩壊応力が、はんだ接合部の熱疲労破壊の発生に及ぼす影響の解明を目的としている。 本年度は昨年度より取り組んでいる熱衝撃試験を、3000サイクルまで延長して実施した。熱衝撃試験後のはんだ接合部の組織観察により、はんだ付直後は粗大結晶粒であったSn母相が、熱衝撃の付与により微細化(再結晶)し、再結晶粒に沿ってき裂が進展していることが確認された。 研究期間全体を通じて得られた知見について記述する。Snのクリープ変形機構は、転位の上昇運動律速のクリープ変形で、固溶型の合金元素を微量添加しても変形機構は変わらないことが明らかになった。合金元素の種類によっては、微量添加であってもSn-3Ag-0.5Cuと同等の流動応力を示すものが見いだされ、溶質原子による強化(固溶強化)は、耐クリープ性の向上に極めて有効であることわかった。しかしながら、温度が高くなるにつれて、固溶強化能力が低減する元素があることが確認され、幅広い温度範囲で使用されるはんだの耐クリープ性を向上させるためには、第二相粒子による強化など他の強化機構の導入も重要であることが分かった。熱衝撃試験において、Snの再結晶粒界に沿ったき裂の進展が観察された。再結晶挙動は、母相の積層欠陥エネルギーが影響することが知られている。よって、「固溶強化による耐クリープ性の向上」に加え、「化学的相互作用による積層欠陥エネルギーの変化(鈴木効果)」も、Sn基二元固溶合金の熱疲労特性に影響していると予想される。 上記が本研究で得られた主な知見であり、これらの知見を活用して今後も熱疲労特性に優れる鉛フリーはんだの開発を継続する。
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