研究課題/領域番号 |
19K15305
|
研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
木須 一彰 東北大学, 材料科学高等研究所, 助教 (80755645)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | イオン伝導 / 錯体水素化物 / 二次電池 / 全固体電池 / リチウム硫黄電池 |
研究実績の概要 |
蓄電デバイスの高エネルギー密度化が求められているなか、次世代電池の中で最大の理論重量エネルギー密度を有しているリチウム硫黄電池への期待が高まっている。一方、それらの電極材料に対して高い安定性を有する電解質が登場していないことが、この電池の実現を妨げる要因となっている。強い還元力を有する錯体水素化物は、反応活性が非常に高いリチウム金属に対して高い安定性を有するため、リチウム硫黄電池用電解質として期待される。本研究では、錯体水素化物固体電解質/リチウム負極および硫黄炭素複合体正極の界面における化学的/電気化学的安定性の評価に加え、界面に生成し得る新規の層について、その生成条件や生成メカニズムを検討し、安定な充放電サイクル寿命を有する全固体リチウム硫黄電池の実現を目指した。 2020年度は、Li4(BH4)3I錯体水素化物を固体電解質、リチウム金属を負極、硫黄炭素複合体を正極に用いた全固体リチウム硫黄電池を構築し、充放電サイクルに伴う正極における物理的/化学的/電気化学的安定性の評価を行った。充放電前後における正極の断面SEM観察およびRaman分光分析を行い、下記のメカニズムを検討した。充放電前の状態では、固体電解質が硫黄炭素複合体まで途切れることなく存在しているため、イオンパスが形成されており、リチウムイオンが硫黄炭素複合体まで伝導することが可能である。一方、このリチウムイオン挿入過程である放電が続いていくと、硫黄とリチウムの反応に伴う体積膨張が起き、正極層全体としての膨張が起こり、続く充電過程においては、逆にリチウムイオンが脱離することで、硫黄の収縮が起こる。硫黄の膨張/収縮に伴い、正極層内の固体電解質にクラックが生成することに加えて、固体電解質の酸化分解が起こることで、イオンパスの喪失が生じ、充放電容量に劣化が起きていると考察した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は低温で比較的高いイオン伝導度を有するLi4(BH4)3I錯体水素化物を固体電解質、リチウム金属を負極、硫黄炭素複合体を正極に用いた全固体リチウム硫黄電池を構築し、充放電サイクルに伴う正極における物理的/化学的/電気化学的安定性の評価を行った。充放電前後における正極の断面SEM観察およびRaman分光分析を行うことで、充放電サイクルにおける正極の容量劣化要因を見出した。また、得られた正極の容量劣化メカニズムから着想を得て、正極における固体電解質と正極材料における組成比の最適化を行うことで、充放電サイクル特性を向上させることにも成功した。さらに、各種マグネシウム、カルシウム系錯体水素化物固体電解質の展開も始めており、本研究は当初計画のお通り、おおむね順調に進展しているものと言える。
|
今後の研究の推進方策 |
2021年度の研究計画は、伝導イオン種による界面新規相安定性の解明を検討する。電極/電解質界面における電気化学反応によって生成する界面層は伝導イオン種のサイズおよび価数に大きく依存することは自明であり、充放電反応メカニズムに対しても大きな影響を及ぼす。 2021年度では、伝導イオン種としてリチウムだけではなく、マグネシウムおよびカルシウムの適用することで、意図的に反応メカニズムに変化を与え、界面新規相の安定性や生成物と伝導イオン種との相互作用を明らかにすることを目指す。具体的には、マグネシウムやカルシウム系錯体水素化物イオン伝導体の開発を行い、全固体金属硫黄電池への応用を行う。界面新規層に対するカチオン種の依存性の解明に向けて、カチオンのサイズや価数を変化させた錯体水素化物イオン伝導体を用いる事で、共通した特徴等を調べる。
|
次年度使用額が生じた理由 |
covid19感染拡大に伴い、旅費等に関する計画が大きく変更されたため、次年度使用額が生じた。
|