研究課題/領域番号 |
19K15307
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
河口 智也 東北大学, 金属材料研究所, 助教 (00768103)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | リチウムイオン電池 / 微細組織構造 / 弾性歪 / 酸化物正極材料 |
研究実績の概要 |
リチウムイオン電池などの蓄電池で用いられている酸化物電極材料では,複数の相から構成されたナノドメイン微細組織構造を有する,Li過剰系材料が他の単相材料に比べて優れた特性を示すことが示唆されている.ナノドメイン微細組織構造を有する材料中では,充放電時に各ドメインの体積変化率の違いに起因する弾性歪が生じることで,アニオン・カチオン間の軌道混成が変化し,高比容量が実現していると推察される.本研究では,そのような現象の機構の解明と,その知見を活かした材料開発を目指す. 初年度にあたる2019年度では,ナノドメイン微細組織構造の充放電特性に対する影響を詳細に調査するために,モデル系として適切な系の探索・合成を主に実施した.合成には,合成時の雰囲気と焼成温度,更には降温速度を高精度で制御する必要がある.そこでまずは,炉の温度とガス流量を外部PCから統合的に制御し温度履歴を記録する,雰囲気制御管状炉システムの作製を行った. 次に,ナノドメイン微細組織構造を有するモデル系として複数の系を合成・検討し, Li-Ti-Ni-Mn-Oから構成される正極材料の合成を行った.合成は異なる降温速度で行い,それぞれについて充放電試験を行った.その結果,降温速度の違いに応じて,比容量・サイクル特性の違いが見られた.次に,充放電後の試料に対して,遷移金属元素と酸素を対象に軟X線発光分光測定を行った.酸素のKa線,遷移金属のLa線スペクトルは,それぞれの元素の価電子帯における状態密度を反映すると考えられる.測定の結果,充放電状態に応じて,それぞれの元素のスペクトル形状の変化が見られるだけでなく,降温速度の違いに応じて変化様式にも違いが見られた.これらの結果は,それぞれの合成条件での材料中の微細構造の違いが,電子状態の変化として現れた結果であると推察されるが,その機構解明にはさらなる検討が必要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2019年度には,合成システムの立ち上げ,系の探索・合成,並びに電気化学試験と基礎的な分析を実施し,これらはもともとの研究計画通りの進捗である.当初は,着目する正極材料の探索・合成のために新規組成を含め広く検討を行った.しかし,機構解明の容易さと高比容量を両立する材料の合成が難しかったことに加え,本年度は本研究の第一の狙いである機構解明に焦点を絞るため,結果的には比較的素性のよく知られているLi-Ti-Mn-Ni-Oから構成される正極材料の合成に至った.
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今後の研究の推進方策 |
合成方法に関しては,微細組織構造の電極特性に対する影響の,より一般的な傾向を掴むために,調査対象とする組成や降温速度を広げ検討する.また,充放電後の材料の分析に関して,これまで行ってきた基礎的な分析だけでなく,より発展的な分析手法である放射光X線を用いた散乱・分光分析や,透過型電子顕微鏡観察などによる構造解析を実施することで,物理モデル構築と機構解明を目指す.
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次年度使用額が生じた理由 |
充放電試験後の試料の準備に時間を要したため,本年度に実施を予定していた,ICP分析を来年度に実施するための費用として使用する.
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