研究課題/領域番号 |
19K15308
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
白岩 隆行 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 助教 (10711153)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 疲労き裂発生 / 破壊力学 / 逆解析 / 鉄鋼 / 空間相関関数 / 結晶塑性 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、結晶塑性論に基づく有限要素解析と種々の統計モデリング手法(空間相関関数や畳み込みニューラルネットワーク)を組み合わせることで、多相組織を有する金属材料について、疲労性能と微細構造の関係を明らかにすることである。本年度は、疲労き裂発生を予測する物理モデルの提案について取り組んだ。具体的な進捗を下記に示す。 <材料・組織観察> 複数の相からなる金属材料のモデル材として、フェライト・パーライト鋼を準備した。SEM観察を行い、EBSD解析を行った。粒形状は、各粒を楕円形に近似し、長径a、アスペクト比a/b、傾きθの3パラメータを統計的に取得した。結晶方位は、方位分布関数(ODF)によって評価した。またIQ値等により各相を判別し、その空間的配置を表す空間相関関数を計算した。 <粒形状・結晶方位のモデル化> 粒形状をメッシュモデルで表現する際には、ボロノイ分割を使用することが多い。しかし疲労き裂発生では、局所的な応力が重要であるため、より詳細に粒形状を再現することが必要である。そこで、重み付きボロノイ分割に異方性を導入することで、上述の3パラメータ(長径a, 短径b, 傾きθ)を反映可能な分割手法を用いた。また結晶方位分布が実験値に一致するように、各結晶粒の結晶方位を割り当てた。 <結晶塑性有限要素解析>有限要素解析ソフトAbaqusと所属研究室で開発された結晶塑性計算のサブルーチンを用いた。結晶塑性パラメータは、低サイクル試験における繰返し応力ひずみ曲線から逆解析により求めた値を用いた。算出された各すべり系のせん断塑性ひずみを、種々の疲労き裂発生則に代入し、き裂発生寿命と発生位置を求めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定したとおり、研究計画の「(1)疲労き裂発生を予測する物理モデルの提案」を達成することができたため。本手法は、鉄鋼材料に限らず、すべり面を起点とする疲労破壊を起こす材料に一般に適用できる可能性があり、今後幅広い材料へ展開していきたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、空間相関関数や情報科学手法によるモデリングと、疲労特性を支配する組織因子の抽出を行う。まず、様々な二相分布(ランダム、層状、クラスタ状、粒界析出型など)を持つ組織モデルを多数作成し、今年度開発した物理モデルによりき裂発生寿命を計算し、組織-疲労のデータベースを構築する。計算から得られたデータを学習データとし、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)に適用することで、組織と疲労き裂発生寿命または繰返し応力ひずみ曲線を対応づける。その学習の結果として、重み値の組であるフィルタが得られる。画像解析の先行研究によると、CNNに画像を入力してある特徴量を予測する場合、フィルタにはその特徴量に影響を与える画像因子が反映されると報告しているものと、フィルタに物理的な意味はないとする報告が両方ある。本研究では、高サイクル疲労試験におけるDICのひずみ場測定やき裂周辺のEBSDの測定結果と比較することで、フィルタに抽出される組織因子の物理的な意味について検討する。もうひとつアプローチとして、空間相関関数による特徴抽出を事前に行う方法を検討する。まず多相組織の分布を3次元の空間相関関数を用いて表現する。次に、主成分分析やt-SNEにより次元を縮約する。この際、特性につながる重要な情報が削除されないように、繰返し応力ひずみ応答との相関を考慮する。このような変数選択では膨大な量の組合せを検討する必要があるため、線形回帰モデルを組み合わせるとなどして工夫する。得られた空間相関関数の主成分を組織への逆変換することで、疲労に関する組織因子の抽出を試みる。この手法は3相以上の組織にも適用可能であるため、残留オーステナイト相含むような3相以上の組織への応用を試み、提案手法の可能性と限界について検討する。
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