本研究の目的は、核融合炉構造材料である鉄系合金をターゲットに、照射損傷組織発達に及ぼす外部磁場の影響について明らかにすることである。核融合炉に使用される材料特有の劣化事象として、炉心プラズマから発生する高エネルギー中性子に曝されることによって材料特性が劣化する、いわゆる照射脆化が極めて重要である。照射脆化は、ミクロには金属結晶中の原子がビリヤードのようにはじき出されることにより形成した格子欠陥(またはその集合体)が熱拡散過程を経て最終的に粗大な欠陥を形成することにより材料が劣化する事象である。格子欠陥は拡散中に磁壁によってトラップされると考えられるが、その詳細については明らかになっていない。本研究では磁場閉じ込め核融合炉の構造材料をターゲットとし、照射欠陥の生成・成長過程に及ぼす外部磁場の影響について、実験・計算の両面から検討を行う。 供試材は純Feをニラコより購入、アーク溶解炉を用いて溶解させボタン状の試験片とした。その後の熱処理(均一化)、試験片への加工、残留応力除去のための熱処理を行った。作製した供試材を用いてイオン照射実験を行った。イオン照射実験は申請者が所属する京都大学エネルギー理工学研究所のイオン加速器DuETを用いた。比較のために磁場を印加しない状態および磁場を印加した状態での照射実験を実施した。照射後の試験片はナノインデンテーション硬さ試験及び透過型電子顕微鏡観察を実施し組織観察を行った。また、反応速度論を用いた検討も行った。 照射前後で磁場の印加の有無に関わらず、照射硬化が観察された。しかしながら、誤差の影響が大きく有意な磁場の影響は観察されなかった。透過型電子顕微鏡による微細組織観察及び、反応速度論による計算の結果、結晶粒サイズとドメインサイズが照射硬化に影響を及ぼしうることが明らかとなった。
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