研究課題/領域番号 |
19K15321
|
研究機関 | 長岡技術科学大学 |
研究代表者 |
中田 大貴 長岡技術科学大学, 工学研究科, 助教 (80800573)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | マグネシウム合金 / 圧延加工 / 集合組織 / 時効析出 / 室温プレス成形性 |
研究実績の概要 |
優れた室温プレス成形性と強度特性を兼備したマグネシウム合金板材の開発を目的として、マグネシウム合金板材の微細組織や機械的性質・プレス成形性に及ぼす添加合金元素や加工熱処理条件の影響を調べた。また、プロセス条件の最適化や最適組織設計指針の構築を目指して、加工熱処理中および室温変形中の組織変化も調べた。 微量添加元素を駆使して、既存マグネシウム合金を凌駕するMg-Zn-Ca基合金板材を開発した。開発した板材は、マグネシウムのc軸が圧延方向および板幅方向に傾斜した弱い底面配向を有し、Al-Mn粒子の粒界ピン止め効果による微細な結晶組織も持つ。このため、7mmを超えるエリクセン値を得られることがわかった。また、開発板材に時効処理を施すことで、マグネシウムの強化に有効な棒状析出物が微細に分散するため、圧延方向の0.2%耐力は260MPaまで向上する。さらに、板幅方向でも200MPaを超える0.2%耐力が得られることもわかった。EBSD同視野観察にて、開発板材の集合組織形成メカニズムを調べたところ、開発板材の弱い底面配向は、圧延加工中に導入された双晶に起因することも明らかにした。 Mg-Al基合金板材開発でも新たな知見を見出した。既存Mg-Al-Mn合金に比較的低温の圧延加工と焼なましを行うだけで、マグネシウムのc軸が板面法線方向から25°程度傾いたリング状集合組織を形成し、エリクセン値が8mmを超えることを発見した。本板材のエリクセン試験中の組織変化をEBSDにより調べたところ、底面すべりの他、柱面すべりや引張双晶の活動も優れた室温プレス成形性の付与に必要であることを明らかにした。また、Mg-Al-Mn合金板材は異方性の小さい良好な強度特性と高い破断伸びも有することもわかった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
EBSDを用いた圧延加工時の変形機構および焼なまし時の再結晶挙動の観察から、2019年度の実施項目であったマグネシウム合金板材の組織形成メカニズム解明を進め、マグネシウム合金板材の集合組織制御に必要な変形機構を提案した。また、マグネシウム合金板材の組織形成に及ぼす添加合金元素や加工熱処理条件を検討した結果、圧延加工中に生じる変形機構とプロセス条件の関係や微細結晶組織を付与するための添加合金元素・加工熱処理条件も明らかにし、室温プレス成形型マグネシウム合金板材の組織制御技術を構築できた。 以上のようなマグネシウム合金板材の組織制御には欠くことのできない基盤技術確立に加えて、2020年度の実施項目である室温変形中の変形機構解明や結晶塑性シミュレーションを援用した強化メカニズム解明にも既に着手している。マグネシウム合金板材の高強度化に必要な析出組織設計指針の確立や、低異方性および高延性を具現化するための最適集合組織および結晶組織の提案、優れた室温プレス成形性の付与に必須となる変形機構の解明なども進めた結果、安価な合金元素と単純な加工熱処理のみの組み合わせで、既存マグネシウム合金を凌駕する室温プレス成形性と機械的性質の付与に成功した。このように、室温プレス成形型マグネシウム合金板材の実用化に必要な学理が得られ、マグネシウム合金の実用化を強く推し進める材料開発も進みつつあることから、本研究課題は当初の計画以上に進展していると考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
SEM, EBSDおよびTEMを用いた精緻な微細組織観察と結晶塑性シミュレーションを利用したマルチスケールな観点から、マグネシウム合金板材の微細組織因子と室温プレス成形性の関係解明を進める。特に、マグネシウム合金板材の実用化に向けたブレークスルーとして、既存Al-Mg-Si系アルミニウム合金と同等程度のエリクセン値(~10mm)を具現化するために必要な変形機構とその微細組織因子提案を目指す。現在のところ、マグネシウム合金板材で10mmを超える室温エリクセン値を実現したという報告はなく、それを実現する微細組織因子も明らかにされていないことから、マグネシウム合金板材の実用化に向けた挑戦的な研究になると考えられる。 微細組織因子-室温プレス成形性の関係解明に向けた取り組みの他、マグネシウム合金板材に高強度・高延性を同時に付与するための最適析出組織提案も進める。代表者は、一連の研究の中で、既存の析出強化機構であるオロワン機構だけでは、マグネシウム合金の析出強化を予測不可能であることを明らかにした。また、析出強化後でも、延性が劣化しないという特異なマグネシウム合金を見出した。これまでの析出強化型マグネシウム合金開発では、析出物のサイズや晶癖面・形状のみが注目され、析出物が分散すると延性は顕著に劣化したが、代表者が見出した知見は、析出強化型マグネシウム合金開発では従来とは異なる視点が必要となることを示唆している。そこで、結晶塑性シミュレーションを援用した組織解析手法を基に、高性能マグネシウム合金の新規な析出組織設計指針構築も目指す。
|