耐摩耗、電池材料など幅広い応用研究がなされているセラミックコーティング手法、エアロゾルデポジション法(AD法)における微粒子衝突時のその場温度圧力測定に取り組んでいる。微粒子衝突時の温度は有限要素法のシミュレーションで、500 ℃、10 GPa以下程度の温度圧力となることが示されているが、その温度圧力環境はいまだ実験的には明らかにされていない。AD法の製膜機構の解明のためにも、微粒子の基板衝突時、運動エネルギーがどのように熱と歪エネルギーに変換されるか調べることは不可欠である。 今年度はAD膜の残留応力とそれが物性に与える影響に着目して実験を進めた。AD膜は結晶子サイズが小さく、またバルクセラミックと比べると体積が小さいため、従来のX線残留応力測定は難しい。本研究では、斜入射X線回折を応用した残留応力測定を行うことで、比較的薄い1 um程度の膜厚のADアルミナ膜の残留応力の測定に成功した。加えて、ADアルミナ膜の硬さ、耐電界強度は残留応力と比例関係にあることが見いだされた。また、残留応力が大きい膜中の結晶のサイズはより小さくなっていることも明らかとなり、これらの応力と物性との関係を膜中の粒径と粒界密度から説明することに成功した。AD製膜においては、より大きな衝突速度で製膜することで機械強度や高い絶縁性が得られることを明らかにした。AD膜の応用に向けた、プロセス最適化の一つの指針が得られたと考えている。
|