本研究ではめっき法とアノード酸化法という簡便な湿式表面処理の組み合わせによる多孔質酸化物電極の作製を目的とする。本手法では,蜂の巣状の単一的な多孔質構造を自己組織的に生成できるため,一般的な作製過程における粒子の凝集や多孔質構造の複雑化を抑制することにより,電極の比表面積を向上させることが期待できる。本研究課題では,特に酸素還元・酸素発生反応(ORR/OER)用電極への応用を目指して,めっき法によるアノード酸化基材表面の組成制御を介した触媒活性な多孔質アノード酸化膜の形成法の確立,および多孔質構造を変化させた際の電極の有効表面積の変化と活性への影響を明らかにする。 本年度では幅広いNi組成のFe-Ni合金めっき膜においてアノード酸化および熱処理を行うことで,高Ni組成のナノ粒子がナノ多孔質膜中に分布したナノ粒子複合多孔質膜が生成することを明らかにした。熱処理前後の多孔質膜の透過型電子顕微鏡観察結果から,このナノ粒子は熱処理によって生成することが分かった。 また,前年度に引き続き多孔質膜のポア径,ポア長さが電極特性に及ぼす影響についても検討を行った。純鉄のアノード酸化により,異なる多孔質構造を有する酸化鉄膜を作製し,電気化学測定により多孔質膜の電気化学的活性表面積(ECSA)を評価したところ,ECSAはポア長さに比例し,μmオーダーの長さのポアであっても,その深部まで電極表面として利用できることが分かった。ポアの伸長によってECSAを増大させると,ORR/OER電極特性の向上も見られるが,一定以上のポア長さにおいては,ORR電極特性の向上は頭打ちとなり,OER特性においては低下した。これは長いポアでは溶存酸素の供給不足や気泡による孔閉塞により,電極の有効表面積が減少するためと考えられ,ECSAの増大だけでなく,このような点も踏まえて多孔質構造を設計する必要があることが分かった。
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