研究課題/領域番号 |
19K15334
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
山岸 洋 筑波大学, 数理物質系, 助教 (40824678)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 多孔質結晶 / 分子結晶 / 疎溶媒相互作用 / ヒドロクロミズム / デンドリマー / 安定ラジカル / フォトクロミズム |
研究実績の概要 |
これまでに開発されてきた多孔質結晶では、孔の空隙を室温で維持するために、構成要素である分子同士を配位結合や共有結合などの強固な分子間結合で結びつけている。その結果、通常の多孔質結晶は結晶は堅牢である一方で溶解したり昇華したりすることがなくなり、プロセス性の低い材料となってしまう。一方で我々は2018年に、VDW力から構成される柔らかい分子性の多孔質結晶を見出している。本研究では、分子性多孔質結晶の優れたプロセス性と耐熱性を利用した研究展開として、多孔質結晶の溶液プロセス法に関する探求と、材料設計の拡張を行った。多孔質結晶のプロセス法を開発する中で、結晶化溶媒との疎溶媒相互作用が多孔質構造を構築する鍵となっていることを見出し、各種の溶液プロセスにおける有機溶媒の選択指針を確立することができた。これは分子性多孔質結晶では初となる分子レベルの設計指針である。また、この研究と並行して材料群の拡張を行った。その結果、新たにカルバゾールデンドリマーの一種が分子性多孔質結晶を与えることを見出した。この多孔質結晶はシグモイド上の水分吸着特性を示すとともに、その水吸着に伴う黄色から赤色への明瞭なクロミズムを示す多機能な材料である。さらに、分子性多孔質結晶のホストゲストケミストリーを開拓する中で、分子性多孔質結晶のエレクトロニクス応用を切り開く発見があった。適切な電解質水溶液中で分子性多孔質結晶に紫外線を照射したところ、多孔質結晶内部に安定なラジカル種が生じた。このラジカルは室温大気下で3.5分という長い半減期を持つともに、緑色の呈色を示す。また、分子量世界最大の有機デンドリマー結晶の単結晶構造解析に成功するとともに、その結晶が効率的な光捕集・レーザー発振機能を持つことを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では、当初の目標通り分子性多孔質結晶のプロセス法を開拓している。その中で、分子性多孔質結晶を与える有機溶媒の選択指針を得ることができた。この発見は、プロセス法の開拓という応用的な意義だけでなく、分子性多孔質結晶が構築される分子的メカニズムを解明する基礎化学的な意義も持つ。また、プロセス法の開拓と並行して提案していた分子設計の多様化にも挑戦し、全く新たな分子性多孔質結晶を開拓することができた。過去の長い材料科学の歴史の中で分子性多孔質結晶がわずか10例ほどしか実現できていないことを考えると、この発見の意義は大きい。更に、この材料は分子性結晶で初となるヒドロクロミズムを示す。これまで結晶構造や構築原理といった基礎化学的な側面のみに焦点が当てられてきた当該分野において、有益な機能が実現できることを示した意義は大きい。また、分子性多孔質結晶のホストゲストケミストリーを探索する中で、光応答ラジカル生成反応を見出した。安定ラジカルを含む多孔質結晶は電気化学分野などで希求されている材料であり、応用的にインパクトのある材料群実現へつながる発見である。また、類似のデンドリマー材料を探索している中で、分子量世界最大の有機デンドリマー結晶の単結晶構造解析に成功した。この材料は優れた光捕集機能およびレーザー発振機能を示した。
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今後の研究の推進方策 |
今回得られた溶液プロセスでの知見と昇華プロセスの知見を組み合わせることで、目標となる多孔質結晶薄膜の合成に挑む。また、その膜を利用した分離・センシングの検討を行う。新たに見出したヒドロクロミズムを示す多孔質結晶の応用用途は広い。色変化を利用した湿度センサー、水の吐き出し挙動を利用した局所加湿器など多様な選択肢で検討を行い、当初の目標であった分離膜を超えるインパクトのある成果に結びつけたい。
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