本研究で注目している分子性の多孔質結晶とは、有機分子がお互いに凝集することで構築される空隙を持った結晶材料のことである。一般的な多孔質材料と異なり、分子性多孔質結晶では構成要素となっている分子の間に強い相互作用が存在しない。この点は特に重要で、なぜ強固な分子間結合ネットワークが存在しないにも関わらず室温で安定して存在できるのか、という基礎的な問いから始まり、溶解性やプロセス性といった応用的な興味まで幅広い面で潜在的な興味を引き起こす。研究者は2018年に、分子性多孔質結晶の中でも最高の安定性をもつ材料を見出しており、本課題ではこの材料をプラットフォームとして、分子性多孔質結晶の生成機能の解明という基礎的な側面と、分離膜への応用という実用的な側面の研究を進めた。 これらの研究の中で、多孔質結晶構造が生成するメカニズムにおける溶媒効果の検証、多孔質結晶内部における光化学反応性と不安定化学種についての探索、ハイドロクロミック特性を示す新たな分子性結晶材料の発見、レーザー発光特性を示す新たな分子性結晶材料の発見、有機材料ホストへのゲスト分子取り込みを利用したセンサーの開発などに成功した。当初の目標であった分離膜実現には未だに至っていないが、有機分子を周期配列型薄膜へと加工する手法の開発に成功している。以上のように、分子性多孔質結晶の基礎的な知見の蓄積と全く新しい実用的可能性を見いだせたことから、当初の想定以上の成果を挙げられたと考えている。
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