研究課題/領域番号 |
19K15336
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
萩尾 健史 名古屋大学, 未来社会創造機構, 助教 (40808648)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | タングステン酸 / 影響因子 / 結晶成長制御 / 酢酸添加 / 膜形成技術 |
研究実績の概要 |
一般的に、混合ガスや溶媒の分離・精製には蒸留法が適用されるが、沸点差を利用する蒸留法は、産業活動に利用されるエネルギーの50%近くを消費するといわれている。近年、ナノ細孔を有するゼオライト等を膜状に形成して分子をサイズによって識別・分離する分離膜が開発され、蒸留法に代わる省エネルギー技術として期待される。しかし、耐酸性が不十分等の課題がある。一方、Nano Pore WO3はナノ細孔を有し、耐酸性も高い有望な候補材料であるが、Nano Pore WO3を膜材料とした分離膜研究は皆無である。そこで、本研究では、種結晶の活用や原料組成・濃度、合成温度・時間等の最適化を図ることで、分子の分離が可能な欠陥のないNano Pore WO3分離膜の開発およびその形成メカニズムの解明を進めている。 本年度はNano Pore WO3の膜形成に適切な核生成が抑制され、結晶成長が促進される合成条件を見出すこととした。そのため、①原料組成・濃度、合成温度・時間等の結晶成長に影響を与える影響因子および② 多孔質支持体上で欠陥のない膜を得るための適切なNano Pore WO3分離膜合成条件の検討を行った。その結果、高濃度の酢酸およびタングステンを含む特定のpH域にある原料溶液から水熱法にてNano Pore WO3を合成するとNano Poreが存在するc面の成長が促進できることが確認できた。これより、酢酸がc軸方向への成長を阻害し、a軸方向の成長を促す可能性が示された。また、膜合成の条件選定に使用する多孔質支持体を準備し、前述の組成を持つ原料溶液にWO3前駆体を担持させた多孔質支持体を浸漬した状態で、水熱合成することによって、一定以上の緻密なNano Pore WO3を膜状形成できた。現在、膜構造と性能の関係性を調査するため、透過試験を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、核生成が抑制され、結晶成長が促進される条件を見出すなど、Nano Pore WO3の膜形成に適切な合成条件を調査した。原料組成・濃度、合成温度・時間等がNano Pore WO3の結晶成長に影響を与える影響因子を調査し、酸の種類や酢酸濃度、タングステン濃度、pH等が顕著な影響を及ぼす因子であることを明らかにすることができた。特に、酸の種類では、c面が拡大する特異な結晶成長が、酢酸を利用した系でのみ見られることを確認できた。また、その効果は酢酸が高濃度ほど顕著であることも見出した。これは、酢酸を利用したNano Pore WO3の結晶成長メカニズムを考察するための有力な情報であり、膜形成に展開する上で、重要な情報を得ることに成功したといえる。 また、Nano Pore WO3の膜合成に関しても検討に使用する多孔質支持体の準備が順調に進み、予定通り進めることができた。これらの多孔質支持体を用い、前述のNano Pore WO3の結晶成長に対する影響因子に関する知見を適切に生かすことで、多孔質支持体上にNano Pore WO3を膜状に形成長させる方法を見出すことに成功した。更に、前駆体を支持体表面に塗布することで、より緻密な膜を形成する方法が見出され、緻密な膜形成が計画より早い段階で実現できつつある。更に、既に透過試験装置も完成し、作製した一部の膜にて水の透過試験を開始している。これらのことからほぼ当初の計画通り推移していると判断する。
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今後の研究の推進方策 |
多孔質支持体上へのNano Pore WO3分離膜合成を最適化するため、更なる緻密化条件の調査や欠陥解析等を行い、多孔質支持体存在下で適切な膜合成条件に調整する。また、作製した膜の欠陥対策と各種成分の透過試験を行うことで、構造の最適化と分離性能の確認を行う。これらを並行して実施し、相互のデータをフィードバックすることで、Nano Pore WO3分離膜の開発と膜合成メカニズムの解明を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
参加予定であった国際会議を次年度開催予定の膜関連学会に変更したことと、準備中の論文の完成がやや遅れているために差額が発生した。上記学会参加費用と現在準備中の英語論文の英文校正費および投稿費に支出する予定である。
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備考 |
資源・素材学会 関西支部 第16回「若手研究者・学生のための研究発表会」にて國司寛人さんが口頭発表「h-WO3結晶の成長方位制御とc面配向膜の形成」により、最優秀発表賞を受賞。
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