研究実績の概要 |
令和 2 年度までに得られた結果を精査した結果, 膜厚差は最大で膜厚の 5 割程度になることがわかった.そこで,今年度は膜厚を用いたデータの不確かさを軽減するためにより均一な膜厚となる成膜条件を検討した.膜厚分布が生ずる原因として,基板の表面粗さに着目した.基板として GDL 基板 (平均表面粗さ 3 μm)およびガラス基板 (平均表面粗さ 1 μm未満) を用いて成膜したところ,いずれの基板上でも膜厚差はおおむね 3 μm 以下となった.以上の検討より,膜厚の分布は基板の種類によらず種々の外乱により 3 μm 程度までしか抑制できないとの結論に至った. 全研究期間を通して当初の目的であった孤立細孔という不均質構造の再現にはいたらなかったが,スラリー中の分散質の粒径分布および異なる比表面積の分散質を用いることで多孔質膜の透過率,細孔径分布および表面粗さを制御可能であるとともに不均質な多孔質構造となりうることを見出した.すなわち,スラリー中の分散質の一部をあえて凝集させた状態で製膜することで,あえて表面粗さの大きな多孔質膜が得られた.また,より比表面積が小さい分散質を用いることで,膜の透過率は膜厚とともに大きくなることがわかった.これは,スラリー乾燥後の分散質の堆積状況が基板付近で密に,多孔質膜の表面付近で疎となるためと考えられる.この膜の透過率に基づく多孔質構造の考察から,比表面積が小さい分散質の場合には,膜厚と共に表面付近の空げき率が大きくなるという膜の不均質構造の可能性が考えられる.また,比表面積が大きな分散質で粒径分布が異なるスラリーから得られた膜について透過率および細孔径を検討した結果,透過率は粒径分布にあまり依存しなかったが,細孔径は一部の分散質が凝集したスラリーから得られた膜で大きくなった.
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