研究課題/領域番号 |
19K15345
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研究機関 | 群馬工業高等専門学校 |
研究代表者 |
工藤 翔慈 群馬工業高等専門学校, 物質工学科, 助教 (50735008)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 晶析 / オゾン添加タイミング / 結晶粒径 / 結晶形状 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、有機化合物の水溶液からの結晶製造を対象にオゾン処理を施しながら結晶製造実験を行ない、オゾン処理で創製される反応生成物が結晶品質に与える効果、結晶品質制御への応用可能性を検討することである。この目的に照らして、今年度は、オゾン処理の条件、溶液の条件によって反応生成物の種類、量が変化すれば、結晶品質も影響を受ける可能性があることに着目した。オゾン処理の条件を多様に設定して晶析による結晶製造実験を行ない、結晶製造時の現象、得られる結晶粒子群の品質との関係の基礎データを取得し、整理した。具体的には、グリシン-水系の冷却晶析系にて、実験方法を構築して、溶液の冷却前、冷却途中のオゾンの添加、またそれぞれの場合でのオゾンの添加量(オゾン濃度一定のガスで添加時間を変更)で析出する結晶の粒径や形状等を整理した。結果として、次のような知見を得た。1)溶液の冷却前にオゾン添加を行なうと、得られる結晶粒子のアスペクト比(2次元投影した際の縦横比)は低下し、その程度はオゾンの添加量で変化する。2)溶液の冷却途中にオゾン添加を行なうと、得られる結晶粒子のアスペクト比は増加するとともに粒径が小さくなる。これらの結晶品質の変化の程度は、オゾンの添加量で変化する。3)グリシン-水系の冷却晶析では、不安定なα-formが析出した後、安定なγ-formに転移することが知られているが、オゾン添加を行なうとγ-formに転移しづらくなる傾向がある。実験した限りでは、この効果はオゾンの添加タイミングによらない。4)オゾン添加のタイミングによって、オゾン添加後の溶液の紫外吸収スペクトルが異なるので、オゾン添加のタイミングによってグリシンの結晶化時に影響を及ぼしている生成成分が異なる可能性が高い。 以上より、オゾン添加の粒径や形状などの結晶品質への効果、ならびに添加条件と結晶品質との傾向を把握することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究全体のなかでの初年年度の位置付けは、原料溶液のオゾン処理の条件によって得られる結晶粒子群の品質がどのように変化するかの調査・整理であった。原料溶液のオゾン処理によって結晶品質が変化することは予測できたが、添加条件等によってどの結晶品質がどのように変化するかまでは実験しないと分からない状況であった。そこで、2019年度は、オゾン添加の量とタイミングに着目して、得られる結晶の品質がどのように変化するかを検討した。検討に際して不可欠なオゾン発生装置ならびに供給のための配管設備、また冷却晶析に不可欠なプログラム恒温槽と晶析槽を導入して検討準備を整えた。実験を行なった結果、対象系にてオゾン添加の量とタイミングによって、オゾン添加の粒径や形状などの結晶品質への効果が異なること、ならびに添加条件と結晶品質との傾向を把握することができた。また、オゾン処理導入の有無が多形の転移にも影響する可能性を発見した。ゆえに、晶析での結晶粒子群製造にオゾン処理を組み合わせることで、どのような結晶品質をどのように制御できそうか、そして実際にどのような方法でそのような制御を実現できそうかの提案の可能性を検討する本研究課題の初年度の位置付けと照らし合わせて、現時点の成果はおおむね順調に進展していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
現時点で、オゾンの添加量、添加タイミングなどのオゾン添加条件よって結晶品質がどのように変化するかの傾向が比較的はっきり表れる結果が得られている。このことより、オゾン処理条件、晶析条件を体系的に設定して検討することで、結晶品質の制御の可能性の幅をより広く探ることができると考える。一方で、現在の検討方法は、結晶粒子群の品質に影響を与えると考えらえれる、オゾン添加により生成する第三成分のプロファイルの幅をダイナミックに変更して体系的に検討するのには適していない。研究代表者は、これまで晶析での過飽和操作による結晶品質制御の手法について研究してきた。その中で、結晶化のタイミングに応じて過飽和を時間的・空間的に適切に制御する手法等を提案してきた。例えば、ミリチューブでのセグメントフローを用いて流路に沿って結晶化を制御するような手法を提案してきた。これらの考案してきた手法は、溶液の状態を時間的・空間的に適切に制御する手法でもある。そこで、これらの手法をオゾン添加により生成する第三成分のプロファイルの幅を考慮した検討に応用することを今後の研究の推進方策とする。これにより、オゾン処理の効果的な条件の開拓に加えて、これまでに考案してきた晶析での結晶品質制御手法とも組み合わせて、これまでなかった結晶粒子群品質や実現できなかった結晶粒子群品質の制御の可能性の検討を目指す。
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