埋蔵量が豊富であるものの、水分・酸素分が多いため用途が限られている低品位炭の利用技術として、溶剤中での加熱処理により効率的な脱酸素を行う溶剤改質が有望である。本研究では、処理溶剤として水と石炭由来タールの混合溶剤に着目し、その特性を制御することで、高品位な改質炭および抽出物から炭素材料原料を製造することを目的とした。 石油由来タールの一つであるカルボル油の詳細分析に基づき、カルボル油の主要成分を含むモデル溶剤による褐炭の改質反応を行った。カルボル油中の不飽和成分が固体分に付加することで、改質性が補助されたことが分かった。褐炭と改質炭の化学構造を解析したところ、改質により脂肪族酸素の割合が減少する一方で、芳香族炭素の割合が増加したことが分かり、改質経路を推定できた。加えて、改質炭の工業分析、酸化特性評価を行った。結果、改質処理により、揮発分が減少し固定炭素分が増加したこと、酸化分解を受け難くなったことが分かった。最終の令和3年度は、モデル溶剤として水/テトラリン混合溶媒を用いて褐炭の改質処理条件の最適化を図った。処理温度の検討では、改質性能と油層抽出物の収率を両立できる400℃を最適条件とした。 得られた油層抽出物の軟化溶融温度は、炭素繊維原料として製造工程で求められる温度範囲(200~300℃)と異なり低い値を示した。そこで、油層抽出物に対し溶剤分画を行うことで、軟化溶融温度を調整した。分画溶剤にエタノール、水/エタノールを用いた時、所望の軟化溶融温度が得られた。GPCによる分子量分布測定により、分画対象の極性に合った溶剤を選定することで、油層抽出物に含まれる低分子成分を効率的に除去できることが分かった。
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