本研究では、反応中間体をとりまく「局所反応場」設計法の確立を目的として、(1)複数の機能を持たせた修飾分子の新規合成と(2)新規触媒上での反応メカニズム解析を試みた。 (1)硫黄とアルケン部位を持つ有機化合物を混合することで、異なる機能を持つ表面修飾分子の簡便な合成に成功した。Ptモデル電極上への修飾、さらに電気化学環境下での安定性も確認した。当初の狙い通り、修飾分子中のスルフィド結合長が電極の修飾分子被覆率の制御因子となることも明らかになった。実際にこれらの電極でアルコール酸化反応を進行させたところ、分子被覆率が20%程度の場合に未修飾Pt電極と比較して高い活性を示すことが明らかとなった。 (2)燃料電池反応として期待されるプロパノール酸化反応に着目して検討を進めた。オペランド解析の結果、Pt表面でのプロパノール酸化反応が2つの経路で進行することも明らかになった。1つ目の経路はプロパノールの自己解離によるCO生成と、それに引き続くCO酸化反応による一般的なアルコール酸化反応と類似した経路、2つ目の経路はプロピオニルの吸着から始まる、アルデヒド、カルボン酸への段階的な酸化反応である。前者で生じる反応中間体(CO)は触媒表面活性サイトをブロックする作用があり、酸化電流値の低下の一因となる。表面修飾分子に含まれる疎水性のベンゼン部位の立体障害により、比較的嵩高いプロピオニルの吸着様式が制限され、プロピオニル生成が促進されたことで、2つ目の経路が有利になり、酸化電流値の増大に繋がったものと考えられる。 本研究により、ジスルフィド結合を含む分子を用いることで、触媒活性制御因子である表面被覆率・官能基特性が容易に設計可能な表面修飾分子を合成できた。本知見はその他のエネルギー、物質変換反応に応用でき、「テーラーメイド触媒」開発の一助となる。
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