研究課題/領域番号 |
19K15365
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石川 聖人 名古屋大学, 工学研究科, 助教 (70750602)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 反復配列遺伝子 / 相同組換え / バクテリア / Acinetobacter / メチル化修飾 / ナノポアシークエンサー |
研究実績の概要 |
DNAの修復機構である相同組換えは損傷DNA以外の相同配列にも作用し、遺伝情報を書き換えてしまう組換えも引き起こす。申請者らが独自に発見した接着蛋白質AtaAの遺伝子には、相同組換えの標的となる反復配列が複数存在する。ataAは不安定な遺伝子構造であるにも関わらず、宿主であるAcinetobacter属細菌Tol 5では相同組換えが起こることなく維持されている。本研究では、Tol 5がataA遺伝子の相同組換えをどのように抑制しているかを明らかにすることを目的とし、宿主細菌と異種細菌における相同組換え頻度を算出すること、及び相同組換え抑制に関与するタンパク質とDNAの塩基修飾の解析に取り組んだ。相同組換えの頻度を定量比較するために、対立遺伝子マーカーsacBをataA遺伝子のリピート配列間に挿入したプローブプラスミドを作成した。これにより相同組換えの頻度を定量できるようになった。いくつかの菌で相同組換え頻度を算出したところ、Tol 5株におけるataA遺伝子の相同組換えは、異種細菌よりもはるかに低く抑えられていることが確かとなった。ataA遺伝子の相同組換えを抑制するタンパク質を特定するために、相同組換え頻度の向上した変異株をランダム変異株ライブラリーから取得することを試みたところ、標的とする変異株がいくつか得られた。また、ataA遺伝子の反復配列内のメチル化塩基を調べるために、ナノポアシークエンサーMinIONを用いて解析した。その結果、ataA遺伝子の相同組換えを起こしやすい大腸菌には検出されないはずの塩基修飾が検出された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
プローブプラスミドを用いた相同組換え頻度の算出法が確立されたことで、これまで定性的であった「Tol 5株はataA遺伝子を相同組換えから保護する」ということが定量的に評価できるようになった。これにより、異種細菌よりも、ataA遺伝子の宿主細菌であるTol 5ではataA遺伝子の相同組換えが有意に抑制されていることが確かとなった。加えて、プローブプラスミドを用いることで、ランダム変異株ライブラリーから相同組換え頻度の向上した変異株が分離できるようになった。このような変異株はataA遺伝子の相同組換え抑制システムが破綻している可能性があるので、変異箇所を特定し解析することでシステムを構成する分子基盤が明らかになると考える。また、MinIONを用いたataA遺伝子のシークエンシングでは、ataA遺伝子の相同組換えを起こしやすい菌には検出されないはずの塩基修飾が検出されたことから、これらの菌でメチル化修飾が異なっていることが明らかとなった。以上、研究申請時に予定していた項目を概ね実施することができ、想定していた結果が得られていることから、本研究課題は概ね順調に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
相同組換え頻度の向上した変異株の変異箇所を特定し、これをTol 5野生株のゲノムDNAから選択的にノックアウトすることで、ataA遺伝子の相同組換え抑制に関わる遺伝子を確定させる。また、変異株のスクリーニングは飽和していないと思われるので、変異株の取得は継続する。メチル化解析では、ataA遺伝子の相同組換えを起こしやすい菌で複製されたataA遺伝子や、メチル化修飾のないataA遺伝子のPCR産物をMinIONでシークエンスする。Tol 5株での結果と比較することで特徴的な修飾モチーフを明らかにし、相同組換え抑制との関係性を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
バイオシェイカーとサーマルサイクラーを更新する目的で物品費として計上していたが、別のプロジェクト予算で更新されたため、購入することを見送った。また、Covid-19感染拡大の影響から、年度末に予定していた研究費打ち合わせと学会発表が軒並み中止となったことから、旅費の使用が予定の半分以下となった。また、想定していたよりも順調に研究が進んだことから消耗品の購入を控えることができたことから次年度使用額が生じた。 次年度使用額は、研究遂行の効率化のために委託解析費や、派遣技術職員を雇用するための財源、高額だが高性能の分子生物学試薬の購入に利用する。
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