DNAの修復機構である相同組換えは損傷DNA以外の相同配列にも作用し、遺伝情報を書き換えてしまう組換えも引き起こす。申請者らが独自に発見した接着蛋白質AtaAの遺伝子には、相同組換えの標的となる反復配列が複数存在する。ataAは不安定な遺伝子構造であるにも関わらず、宿主であるAcinetobacter属細菌Tol 5では相同組換えが起こることなく維持されている。本研究では、Tol 5がataA遺伝子の相同組換えをどのように抑制しているかを明らかにすることを目的とし、宿主細菌と異種細菌における相同組換え頻度を算出すること、及び相同組換え抑制に関与するタンパク質とDNAの塩基修飾の解析に取り組んだ。これにより相同組換えの頻度を定量できるようになった。いくつかの菌で相同組換え頻度を算出したところ、Tol 5株におけるataA遺伝子の相同組換えは、異種細菌よりもはるかに低く抑えられていることが確かとなった。加えて、リピート配列の種類によって組換え頻度に違いがあることが明らかとなった。ataA遺伝子の相同組換えを抑制するタンパク質を特定するために、相同組換え頻度の向上した変異株をランダム変異株ライブラリーから取得することを試みたところ、相同組換え頻度が100倍以上も向上した変異株が得られた。そして、この変異株の欠損している遺伝子を特定することに成功した。また、ataA遺伝子の反復配列内のメチル化塩基を調べるために、ナノポアシークエンサーMinIONを用いて解析した。その結果、ataA遺伝子の相同組換えを起こしやすい大腸菌には検出されないはずの塩基修飾が検出された。
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