研究課題/領域番号 |
19K15366
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研究機関 | 聖路加国際大学 |
研究代表者 |
山平 真也 聖路加国際大学, 医科学研究センター, 研究員 (70750652)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | シングルセル / PEG脂質 / 刺激応答性材料 / 1細胞分離 / 1細胞解析 |
研究実績の概要 |
現在、次世代の基礎研究や創薬、そして医療の発展のために、1細胞単位で細胞を詳細に解析・単離する技術の開発が必要とされている。しかし、現状では迅速・簡便かつ安価な1細胞解析・回収手法が無く、1細胞技術を使用できる研究者・医療従事者は限られている。そこで、申請者らは、1細胞単位で生細胞を容易に操作可能な光応答性の接着剤(光活性化Polyethyleneglycol(PEG)脂質)を開発した。本研究では、光活性化PEG脂質を用いた1細胞アレイ技術と1細胞回収技術を社会実装が可能な機器レベルまで発展させ、1細胞操作技術が必要とされている2種類の医療へ応用することを目的とした。具体的には、「1細胞アレイを用いたサイトメガロウィルスの検出」と、「がん特異的なT細胞の1細胞単離及び解析」ついて研究を行った。令和元年度の「1細胞アレイを用いたサイトメガロウィルスの検出」に関する研究では、感染細胞となるヒト好中球の1細胞アレイ作製とハイスループットな画像解析の確認を行った。「がん特異的なT細胞の1細胞単離及び解析」に関する研究においては、光活性化PEG脂質を用いた血球系細胞株の1細胞単離とPCRによる遺伝子発現確認の検証を行った。令和2年度の研究では、実際に患者由来の検体を用いて、1細胞アレイを用いたサイトメガロウィルスの検出と、がん特異的なT細胞の1細胞単離と1細胞PCRによるTCRのα鎖・β鎖の遺伝子の増幅及び配列決定について研究を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「1細胞アレイを用いたサイトメガロウィルスの検出」 サイトメガロウイルス感染症の検査は、pp65抗原を指標に感染細胞を染色し、検査技師による血液塗抹標本の目視検査によって行われている。この検査では、数万の好中球と、その内の感染細胞数をカウントする必要があるため、多くの時間と労力がかかる。本研究では、光活性化PEG脂質を用いて好中球の1細胞アレイを作製し、画像解析により迅速に抗pp65抗体陽性の感染細胞を検出する手法の開発を行う。まず、光活性化PEG脂質を用いて、ヒト末梢血由来の白血球の1細胞配置が可能か検証したところ、好中球を含む白血球の1細胞アレイの作製が確認された。蛍光標識抗体を用いて白血球の種類の同定が可能か確認したところ、自作の画像解析ソフトを用いることでハイスループットな細胞解析が可能であることも確認された。 「がん特異的なT細胞の1細胞単離及び解析」 細胞集団から1細胞を単離する技術として、マイクロマニピュレーターや全自動1細胞回収機器が以前より用いられいる。しかし、これらは高度な技術や多大なコストが必要とされるため、限られた研究者にしか使用できず、創薬, 医療, 基礎研究の発展において障害となっている。本研究では、PEG脂質をコートした安価な検査チップのみで多数の細胞集団から1細胞を基板に光捕捉して単離する技術を開発し、がん治療に有用ながん特異的T細胞の1細胞単離を行い、さらにPCRによる遺伝子解析も行うことを目的とした。光活性化PEG脂質表面において、ヒト末梢血由来のT細胞に共焦点顕微鏡を用いて光を照射したところ、任意の1細胞を捕捉・単離できることが確認された。また、本研究の為に独自に開発した顕微鏡観察が可能なPCR用容器を用いたところ、1細胞の単離が確認でき、さらにその1細胞の蛍光タンパク質発現遺伝子をPCRにより検出可能であることが確認された。
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今後の研究の推進方策 |
「1細胞アレイを用いたサイトメガロウィルスの検出」 令和元年度の研究では、サイトメガロウィルスの感染細胞となる好中球を1細胞アレイ化できることが確認された。一方、当該1細胞アレイとフローサイトメトリーで全白血球に対する好中球の割合を比較したところ、1細胞アレイでは好中球の割合が低くなっていた。原因を確認したところ、1細胞アレイ化操作中に好中球細胞外トラップ(Neutrophil extracellular traps:NETs)と考えられる好中球特有の免疫現象が発生していることが示唆された。NETsを起こした好中球は死滅してしまう為、1細胞アレイ化ができない。そこで、令和2年度の研究では、NETs阻害試薬等を用いることにより、好中球の1細胞アレイ化効率を高めてサイトメガロウィルス検査に十分な数の好中球を1細胞アレイ化し、pp65抗原を指標にサイトメガロウィルス感染細胞の検出を行う。 「がん特異的なT細胞の1細胞単離及び解析」 令和元年度の研究では、ヒト末梢血由来T細胞の1細胞単離技術と、蛍光タンパク質発現細胞株の1細胞PCR技術の開発ができた。令和2年度は、ヒトがん組織浸潤T細胞からT細胞疲弊分子PD-1と4.1BBに対する蛍光標識抗体を用いてがん特異的T細胞を検出し、光活性化PEG脂質表面を用いてがん特異的T細胞の単離を行う。さらに、このT細胞から1細胞RT-PCRによりTCRのα鎖・β鎖の遺伝子を増幅し、その配列の決定を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和元年度の年度末には、複数の学会に参加する予定であったが、コロナの影響により学会が相次いで中止となったため、学会参加とそのための旅費の支出が無くなった。また、年度後半には実際にヒト検体を用いた実験を数十例行う予定であったが、同じくコロナの影響によりヒト検体を用いた実験が限られ、それに伴う抗体試薬やPCR試薬、シーケンス費用といった消耗品費が大幅に減少した。次年度には令和元年度に未発表となった研究結果の学会発表や、遅れているヒト検体を用いた実験の増加、さらにはそれら研究結果の論文発表を計画している。それに伴う消耗品費や旅費、その他費用等の増分に次年度使用額を充当する予定である。
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