研究課題/領域番号 |
19K15367
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研究機関 | 崇城大学 |
研究代表者 |
櫻木 美菜 (水谷美菜) 崇城大学, 工学部, 准教授 (90646829)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | マイクロエマルション / 放射光X線散乱 / レスベラトロール / 深共融溶媒 |
研究実績の概要 |
本研究では、ポリフェノールの新たな経皮デリバリーキャリアの創製を目的とした。現在、経皮吸収キャリアとして、球状のマイクロエマルション(ME)が用いられ、MEの成分、粒子径、濃度などの要因が経皮吸収率に影響を及ぼすと報告される。しかし、球状以外のMEについては、形が一般的ではなく、その超分子構造と経皮吸収率の関係性が不明である。申請者らは、界面活性剤の凝集特性を変化させる深共融溶媒(DES)を用いると、大きさの異なる球状や棒状構造のMEが得られることを見出している。本研究では、形状の異なるMEにレスベラトロール(RSV)を内包させ、MEの形状と皮膚透過率の関係を評価した。 まず、Rsv内包MEの構造特性とRSV内包量の関係性を調べ、皮膚透過試験を行った。MEの成分には非イオン性界面活性剤のTween80、Span20、内相はDES/水の混合溶媒を用い、RSVを飽和量取り込ませた後、MEの安定性評価とRSV取り込み量、X線散乱によるMEの構造を評価した。その結果、球状MEの方が棒状MEよりも皮膚透過性は高い傾向にあるが、RSV取り込み領域の広い棒状MEがRSVの内包量が高く、最終的には棒状MEの方がRSVの皮膚透過量が高いことが示された。また、異なる組成でベシクル状のMEが得られ、さらなるRSVの取り込み量を達成できた。 MEやMEの構成成分を角層に適用したときの作用機構を放射光X線散乱により調べた。MEを角層に適用した際は、MEの形状因子と角質細胞間脂質のラメラ構造のピークが重なり、どちらも構造が変化するために、全体の平均的な情報が得られるX線散乱では解析が難しかった。一方、DESを角層に適用したときの角層成分の構造変化を詳細に解析できた。結果として、DESは角質細胞間脂質の短周期ラメラ構造を部分的に乱し、薬剤の皮膚浸透を高めることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目は、1)サンプル調製、2)RSV内包MEの構造評価とRSV取り込み量、3)RSV皮膚浸透性の評価を行い、当初の計画通り実験を進行でき、2報の論文掲載に至った。 2年目は、MEを角層に適用時の角層成分とMEの構造変化のX線散乱測定に焦点を当てた。しかし、MEの形状因子と角質細胞間脂質のラメラ構造のピークが重なり、どちらも時間と共に構造が変化するために、X線散乱測定による解析は難しいと思われた。その中で、MEの構成成分と角層の作用機構を調べたところ、DES適用時の角層成分の構造変化を詳細に解析でき、論文の掲載に至った。角層中のMEの散乱については、重水素化した溶媒を内相に含むMEを用いて中性子散乱実験を行うことで観察できると期待される。オーストラリアのANSTOにて2020年度に実施予定であったが、当分COVID-19の影響で実施できないと思われるため、J-Parc(茨城県)での実験を引き続き計画している。 現在のところ当初の計画であったMEと角層成分の作用機構については解決できなかったが、この一年で成果を出せる見込みがあること、論文は2年間で3報掲載に至ったため、(2)を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、角層透過においてMEがどのように皮膚成分と作用し、いつ内包物を放出するかを調べることが必要である。ME内相の溶媒を重溶媒に置き換えることで、ME内相からの散乱を際立たせることができる中性子散乱を用いれば、角層中におけるMEからの散乱を観察可能であると考えたため、中性子散乱施設J-Parc(茨城県)、ANSTO(オーストラリア)へ実験の申請書を提出し、2年目に実験を行う予定であった。しかし、COVID-19感染拡大の影響で、実験が保留となってしまった。そのため、2年目はX線散乱で条件確立を試みたが、いくつか困難な点があり、多くの時間を費やしてしまった。X線散乱はビーム径が300μm程度であり、X線照射位置により角層の散乱が少し異なる。また角層の水分量の少しの違いで角層のピークの形や強度が異なるが、角層の水分は時間と共に揮発してしまい、水分の維持が難しかった。しかし、角層を数枚積み重ねることで水分を維持させやすくなり、照射位置の違いによるピークの違いについては、照射位置を複数点変えて平均化したデータを使用する、など解決策が見えてきた。今後は湿度調節装置を用いて角層の水分量の調整をより再現よくできる条件を検討し、中性子散乱測定を実施する。また、内相にDESを含むMEは従来のMEであるW/O型MEよりも不安定で、組成によっては数時間で分離してしまう。より安定なMEを用いた方が、角層との作用機構を評価しやすいため、サンプルの組成についても再検討し、より確実なデータを得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID19の影響で、当初予定していた中性子散乱実験が実施できず、重水素化された試薬類を購入する必要がなくなった。また、当初予定していた学会発表もオンラインとなり、旅費がかからなかった。中性子散乱施設の実験計画(5月書類提出、ビームタイム2021年11月~2022年3月)が採択されれば、その旅費と必要な試薬類の購入に当て、採択されなかった場合はX線散乱実験にて本テーマの続きを実施するため、SPring8への旅費、消耗品費に当てる予定である。
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