研究実績の概要 |
近年、代謝工学、合成生物学の発展に伴い、微生物を菌体触媒に用いた有用化合物生産に関する研究が世界中で幅広く行われている。申請者は過去の微生物による物質生産研究において、様々な芳香族化合物を高収率・高生産性量で生産するプラットホーム技術を開発している(Noda et al, 2016, Metab Eng.)。また、このプラットホームを拡張し、産業的に莫大な市場規模を持つマレイン酸をグルコースから合成する技術を世界で初めて報告している(Noda et al, 2017, Nat Commun.)。これまでの微生物によるモノ作り研究においては、天然に存在する酵素や代謝経路の一部を組み合わせ、グルコースからの新奇合成経路を開通させる、という手法を取っていた。酵素の機能化に関する研究も行われているが、戦略としてはランダム変異導入等の、ある種非合理的手法が主流であった。しかしながら、近年、世界中の様々なグループが酵素の結晶構造を基に変異部位を絞り込み、合理的に酵素を高機能化する研究に取り組んでいる(Li et al, 2018, Nat Chem Biol; Siegel et al, 2015, Proc Natl Acad Sci U S A)。これらの研究では、1酵素の基質特異性を高めることや、非天然の反応を触媒する酵素の開発を行っているが、酵素工学的な基礎研究である場合が多く、実際に新奇酵素を用いた有用物質生産という段階に踏み込めていない。本研究では、合理的な新奇酵素開発技術を確立することにより、申請者が保有する芳香族化合物合成プラットホームの高機能化を行う。新奇酵素を申請者が過去に報告した高収率・高生産量で芳香族化合物を合成可能なプラットホームに適用することにより、芳香族化合物に留まらず、ジカルボン酸・ジオールなども微生物合成可能なプラットホームの開発を行う。具体的には、ムコン酸を出発化合物として、最終的に1,6-ヘキサンジオールを生産する酵素群の開発を行う。
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