研究課題/領域番号 |
19K15373
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研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
山岸 彩奈 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 生命工学領域, 研究員 (00778293)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 塩素イオンチャネル / 癌細胞 / 浸潤能 / 原子間力顕微鏡 |
研究実績の概要 |
塩素イオンチャネルは塩素イオンの排出によって細胞容積を調節する。これまでに中間径フィラメントのネスチンをノックアウト(KO)し、浸潤能が低下したマウス乳癌細胞において塩素イオンチャネルClic1の発現量が顕著に低下することを見出した。転移中の癌細胞は狭い隙間を通過する際に細胞が圧縮され移動が阻害されると考えられるが、我々は,このとき細胞膜が伸展して塩素イオンチャネルが開口し、イオンが排出されることで細胞容積を減少させているのではないかと推察した。またこのような能力を獲得しているなら、外圧により機械的に細胞膜が伸展するだけで塩素イオンが排出されると考えた。そこで本研究では、細胞圧縮状態におけるClic1の機能を明らかにすることを目指し、細胞外に排出された塩素イオンを検出する技術の開発を目的としている。 本年度は、塩素イオンと結合することで蛍光強度が減少する細胞膜透過性の蛍光試薬MQAEを導入した高転移性マウス乳がん細胞、もしくは浸潤性が低下したネスチンKO株に対して外圧を印加し、塩素イオンの排出能の評価を行った。外圧印加には原子間力顕微鏡と、先端にポリスチレン粒子を取り付けたカンチレバーを使用した。このとき蛍光顕微鏡で細胞を経時的に観察した結果、外圧印加直後にMQAE由来の蛍光強度の上昇が確認された。このことから、外圧印加により機械的に塩素イオン排出を誘起出来ることが明らかとなった。また、この蛍光強度の上昇は浸潤性の低いKO株と比較して、元株である高転移性のマウス乳癌細胞の方が顕著であった。以上の結果から、本手法で評価する塩素イオン排出能とがん細胞の浸潤能には正の相関があると推察している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ポリスチレン粒子を取り付けたカンチレバーを用いることで、細胞の塩素イオン排出を誘起できる外圧印加条件を決定することができた。さらに、細胞膜透過性の蛍光試薬を癌細胞に導入することで、外圧印加時における塩素イオン排出能を評価する方法を確立できた。この手法により、当初予想していた通り、癌細胞が圧縮されたときに塩素イオンを排出すること、その排出能が癌細胞の浸潤能と相関することを見出した。したがって、当初の計画通りおおむね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
細胞外に排出された塩素イオンを検出するカンチレバー型センサーを作成する。ポリスチレン粒子を先端に取り付けたカンチレバーを、塩素イオンインジケーターを含むアガロースゲルに浸漬することで、粒子表面をゲルで被覆する。これを用いて細胞に外圧を印加し、排出された塩素イオンとの結合により減少したインジケーターの蛍光を観察することで、塩素イオン排出能を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年3月22日から25日まで日本化学会第100春季年会に参加する予定だったが、新型コロナウイルスの影響で中止となったため、旅費の使用がなくなった。次年度の消耗品費用として使用する予定である。
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