研究課題/領域番号 |
19K15382
|
研究機関 | 芝浦工業大学 |
研究代表者 |
張 暁賓 芝浦工業大学, SIT総合研究所, 准教授 (40647111)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 透過型電子顕微鏡 / その場観察 / ポイントコンタクト / 熱電性能測定 |
研究実績の概要 |
本研究課題では、ナノスケールのポイントコンタクトを形成することによって熱電材料の局所的ペルチェ定数を測定し、熱電性能とポイントコンタクトのサイズ依存性を調べることは目的である。また、熱電性能は試料の結晶方位との関係性を透過型電子顕微鏡その場観察(in-situ TEM observation)を利用して調べる。 本年度中、その場観察用一軸傾斜TEM試料ホルダーを開発した。それを使用し、多結晶N型ビスマステルライド(BiTe)系熱電材料の熱電性能計測およびナノ構造評価を行った。ビスマステルライドは室温付近で最も熱電特性の高い材料である。試料はバルク状態からクラッシュし、破片をTEMホルダーの先端にある試料台の側面に吸着させた。試料台の片側からマンガニン細線で作った探針をモーター駆動で試料に接近することによってポイントコンタクトを形成した。TEMチャンバーに入れる前に、まずex-situ(TEM観察を行わない)でペルチェ定数の測定を試みた。in-situでの測定結果と比較するために、加熱台付き且つTEM試料ホルダーを挿入できる真空チャンバーを作った。チャンバー内の真空度は10-5 Paに達成でき、TEMチャンバー内と同水準である。N型BiTe系試料の熱電性能と電気性能を評価するためのI-V関係、電気抵抗、ペルチェ定数などを測定し、バルク試料との性能比較を行った。高分解能TEM像より、N型BiTe系試料は多結晶の六方晶構造であることを確認できた。本年度の業績としては、学術論文2報、学会発表3件があった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度内に、その場観察用一軸TEM試料ホルダーを開発し、ex-situでN型BiTe系熱電材料の熱電性能測定およびナノ構造観察を行った。ポイントコンタクトを形成するための金属探針はマンガニン細線を利用し、超音波モーターによる粗動とチューブピエゾによる微動の機構が取り付けられている。実験は以下のように展開した: N型BiTeバルク試料をクラッシュし、得られた破片を開発したTEMホルダーの試料台の側面に付き、ナノ構造観察を行った。試料は多結晶の六方晶構造であることは分かった。 マンガニン探針を試料の片側に接触させ、電気回路を形成した。試料に直流を流してI-V関係と電気抵抗を測定し、試料の電気性能を評価できた。また、試料に直流と交流を流した時の電圧差からペルチェ定数を算出した。 N型BiTeバルク試料を作製した真空チャンバー内で50℃、100℃、150℃までに加熱し、それぞれの無次元熱電性能指数ZTを測った。将来、その場観察に用いた試料と同条件での測定結果を比較するためのデータとして使う予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今までの試料作製は、クラッシュで得られた小さな破片使いましたが、クラッシュ時に試料の結晶方位を選別できないため、破片の結晶方位はバラバラであり、厚さも不均一だった。その関係で、試料の高分解能像を撮るのは難しかった。今年、本学は新しい収束イオンビーム顕微鏡(FIB)を導入した。FIBはナノスケールの加工や断面試料作製などに使われ、パワフルな機能を持っている装置である。FIBを利用すれば、バルク内部の結晶粒の向きに合わせて試料をカットでき、加工したラメラ(lamellar)状断面試料をホルダーに装着すれば、容易に原子像を撮ることができる。また、測った熱電性能は結晶方位との関係を結ぶことができ、課題の成功に大きく促進できる。今後、このFIB装置を活用してその場観察用TEM試料を作製する予定である。 ポイントコンタクトを形成するための探針は市販のマンガニン細線を利用したため、サイズが数十umまで大きく、試料とナノスケールでの接触は難しかった。そのため、熱電性能はポイントコンタクトのサイズとの依存性を正しく調べることはできなかった。化学的電解研磨法を利用してタングステン細線をプローブに作る方法があり、本研究の探針作製に応用すれば、より小さなポイントコンタクトを形成でき、制御的にサイズ依存性を調べることができる。これから、この方向に展開する予定である。 その場観察用TEM試料ホルダーに加熱機能を加え、試料は温度による熱電性能とナノ構造の変化を測れるようにする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
その場観察用TEM試料ホルダーの製作は段階的に進んであり、これから、試料加熱できる機能をホルダーに加える予定してあり、費用は次年度に発生する。 材質やドーパントによる熱電性能への影響を評価するために、消耗品としていくつ種類の熱電材料を購入する予定である。 研究結果を社会に発信するため、本年度中にいくつの国内、国際会議を参加する予定してあり、旅費と参加費を発生する。また、学術雑誌への論文投稿も計画してあり、投稿前の英文添削について予算がかかる。
|