近年、環境熱から光エネルギーを得る中核技術の一つとして、ナノ構造物質の熱放射特性やその制御が盛んに研究されている。本研究は、キャリアドープした単層カーボンナノチューブを用いて、量子多体効果が熱放射特性に及ぼす影響を解明し、1次元量子ナノ構造の熱光物性の理解を深め、量子効果を利用した熱放射光スペクトルの自在制御へと繋げることを目的としている。前年度は、単一ナノチューブ電界効果トランジスタ(FET)構造を作製し、ゲート電圧印加に伴うキャリアドープによって、熱放射強度が減少することを観測した。本年度は、熱放射特性のゲート電圧依存性をナノチューブの加熱温度を変えながら測定し、熱放射強度の減少の詳細なメカニズムを調べた。熱放射に加え、ゲート電圧敏感な室温のレイリー散乱とフォトルミネセンスも測定し、それらとの比較から、熱放射強度の減少は励起子の振動子強度の減少の帰結であることがわかった。ドープキャリアとの結合による励起子の振動子強度の減少が室温実験で既に報告されており、約1000 Kの高温でも同様な励起子-キャリア相互作用が起こっていることが示唆された。バルク材料に比べ、ナノチューブのような量子ナノ構造物質では強い多体効果がエネルギー量子間で働くため、キャリアドープなどを利用することで、熱放射強度の自在制御が可能となることを実証できた。また、FET構造の様にデバイス実装することで、熱放射のオンオフといったダイナミック制御が可能となり、温度調整の新しい技術に繋がると期待される。
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