強磁性体ナノワイヤを創成することは結晶成長や形状異方性の大きな材料での磁化といった基礎科学的興味に止まらず、次世代の高密度記憶媒体・磁気抵抗素子の開発につながる重要なテクノロジーである。強磁性体ナノワイヤに機能を持たせるためにはヘテロ構造を作り込むことがカギとなる。 初年度に化学気相蒸着法によるFeナノワイヤの作製を確立した。当初の予定では最終年度にFeナノワイヤ中にヘテロ構造を作りこみ、面直通電型巨大磁気抵抗素子の作製を目的としていたが、新型コロナウイルス感染症の流行により予定を変更してFe/Fe3O4コア・シェルナノワイヤの作製とその磁気特性評価を行った。シェル部分であるFe3O4の厚さを制御して形成するために抵抗モニタリング法と呼んでいる新規な手法を開発した。この方法ではFeナノワイヤの酸化による抵抗変化をFe3O4の厚さに換算でき、Fe3O4の厚さを推定しつつ酸化を進行させることが可能である。低圧酸素化でゆっくりと酸化することによりエピタキシャルな関係を保ちながらFe3O4が形成されることが明らかとなった。抵抗モニタリング法により算出したFe3O4の厚さが透過型電子顕微鏡により観察したものと一致することを確認し、抵抗モニタリング法の有効性を実証した。この抵抗モニタリング法は様々な金属/酸化物コア・シェルナノワイヤを作製するための強力な手法になる。Fe/Fe3O4コア・シェルナノワイヤの磁化曲線はほとんどFeナノワイヤのそれと同じであったが、これは作製したコア・シェルナノワイヤのFe3O4層が薄かったためと考えている。交換スプリング効果を観測するためにはFe部分の径を数十nm以下にする必要があると考えられる。
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