研究課題
本年度は、初の中性リチウム内包フラーレン誘導体となるリチウム内包PCBM(Li@PCBM)の合成、および基礎物性評価から着手した。まず、既存のPCBM合成法を参考に、カチオン性リチウムイオン内包PCBM(Li+@PCBM TFSI-)を合成した。得られたカチオン性Li+@PCBM TFSI-をデカメチルフェロセンにより一電子還元することで、目的化合物Li@PCBM(Li+@PCBM・-)を得た。紫外可視近赤外吸収スペクトルおよびESRスペクトルから、PCBM骨格が一電子還元されたPCBMラジカルアニオン構造の生成を確認した。次に合成したLi@PCBMの溶液中での凝集挙動に関する検討を実施した。Li@PCBMは汎用有機溶媒に対して高い溶解性を示し、動的光散乱法による粒子径測定の結果、とりわけCBやo-ジクロロベンゼン(ODCB)中では単分子レベルで分散可能であることが確認された。続いてLi@PCBM-PCBM間の相互作用に基づく複合粒子の形成に関する知見を得るため、両分子混合溶液に対して粒子径測定を実施した。C60のODCB溶液に対してLi@C60を添加すると、複合粒子形成のため粒子径は増大する。一方、PCBMのCB溶液に対するLi@PCBMの添加では、混合後も単分子レベルで分散した状態が保たれていることが確認されたことから、Li@PCBM添加割合の高い領域においても、溶液プロセスによる良質な複合薄膜作成が可能と期待される。また、PCBM骨格との親和性が低い溶媒を用いることでLi@PCBM:PCBM複合魔法数粒子および複合結晶の育成が可能であると考えられるため、今後、多種類の溶媒を用いて詳細な検討を進める。
2: おおむね順調に進展している
初年度の研究実施計画の通り、目的の新規化合物リチウム内包PCBMの合成に成功し、基礎物性評価および溶液中での凝集挙動に関する知見が十分に得られている。また、すでにLi@PCBM:PCBM複合薄膜の作製およびフェルミ準位測定の予備的な実験に着手しており、次年度は速やかにデバイス応用を進める段階にある。加えて、Li@C60およびLi@PCBMの物性に関し、当初の予想にはないスピン特性を利用した非線形的な温度依存を示す有機FETデバイスへの応用可能性や、外部刺激により誘起される特異な構造転移による新炭素材料の合成など、新しい研究展開も見え始めている。当初の目標の1つである完全構造決定および分子間相互作用の詳細検討のための単結晶X線構造解析には至っていないが、おおむね順調に進展しているといえる。
Li@PCBM:PCBM複合薄膜を作製し、Li@PCBM添加割合の異なる薄膜試料に対し、フェルミ準位測定や比抵抗測定などを試みる。結果に基づき、それぞれの混合割合における物性に適した活性層を用いたペロブスカイト太陽電池素子を作成・評価する。また、Li@PCBM-PCBM間の分子間相互作用に関し、溶媒選択による複合粒子径制御に関する検討と複合粒子の物性探索、およびLi@PCBM:PCBM複合固体試料に対するESRスペクトル測定を実施する。
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Chemical Communications
巻: 55 ページ: 11837-11839
10.1039/c9cc06120g