研究実績の概要 |
本研究は、層状物質を筒状に巻いた遷移金属ダイカルコゲナイドナノチューブ(TMDC-NT)の合成技術を開発し、これまでに開発してきた分離精製技術と組み合わせることで、未だ実現されていない1次元性を有する均一なTMDC-NTを創製し、1次元性を反映した物性やバルク・2次元系を超えるデバイス応用を実現することを目指す。これまでの研究で用いていた市販試料は1次元化に必要な小直径試料をほとんど含まず、小直径試料に特化した合成技術の開発が求められる。また、TMDCはMX2 (M = Mo, W, Nb, X = S, Se, Te) の構造を取り、構成元素により物性が大きく変化するため、異種元素試料はTMDC-NTの物性研究やヘテロ接合デバイス等のデバイス応用に必要である。しかし、WS2-NT以外の研究はほとんど行われていない。そのような背景の下、2019年度は、試料の1次元化に必要な小直径TMDC-NTの合成技術の開発、デバイス応用に向けた異種元素への展開を行った。 合成技術の開発:TMDC-NTの合成は、前駆体となる金属酸化物ナノワイヤの合成、ナノワイヤからナノチューブに変換するためのカルコゲン化に分けられる。本研究では、液相合成によってナノワイヤを得て、その構造を維持しつつナノチューブにするカルコゲン化技術を確立し、得られたWS2-NTが良好なトランジスタ特性を示すことを明らかにした。得られた試料の平均直径は20 nmであり、市販試料(100 nm)に比べて大幅な低次元化に成功している。また併行して、気相法によるナノワイヤの合成を行うための合成装置の構築を行った。 異種元素への展開: 水素存在下でカルコゲン化を行うことで、ナノワイヤのセレン化が可能になることを発見し、平均直径19 nmのWSe2-NTの合成に成功した。トランジスタ測定によりWSe2-NTの両極性伝導を初めて明らかにし、光学測定によりWS2-NTとは明確に異なる光学ギャップを実験的に観察した。
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