本研究は、層状物質を筒状に巻いた遷移金属ダイカルコゲナイドナノチューブ(TMDC-NT)の合成技術を開発し、これまでに開発してきた分離精製技術と組み合わせることで、未だ実現されていない1次元性を有する均一なTMDC-NTを創製すること、1次元性を反映した物性やバルク・2次元系を超えるデバイス応用を実現することを目的とする。2021年度は、本目的の達成に向けた課題として、1次元TMDC-NTの創出に向けた①前駆体の構造制御による小径TMDC-NT合成、新奇物性開拓およびデバイス応用に向けた②ヘテロTMDC-NT応用に取り組み、以下を実現した。
①前駆体の構造制御による小径TMDC-NT合成:前駆体の構造を制御することにより、小径のTMDC-NTを得る技術を開発した。まず、液相合成前駆体では、ポリエチレングリコールを用いて有機溶媒に分散させ、小径の前駆体を取り出すことにより、直径約15nmのWS2-NTを得る合成法を確立した。さらに、気相合成前駆体では、成長温度の制御により前駆体の直径を制御し、そこから直径約20nmのMoS2-NT・MoSe2-NTを得る合成法を確立した。両者において、従来の大量合成試料(直径約100nm)に比べて、より1次元的な構造を有するTMDC-NTの合成に成功した。
②ヘテロTMDC-NT応用:合成したTMDC-NTを基材として、異なるTMDCを同軸積層させるヘテロTMDC-NTへの応用を行った。WS2-NTの外側にMoを蒸着し、それを硫化することによりMoS2-NT/WS2-NTのヘテロ構造を得る技術を開発した。MoS2/WS2は、両者とも半導体であり、PN接合等に有用なヘテロ接合界面を形成する。今後、TMDCの組成の自由度を活かしたバンドギャップエンジニアリングや、表面積が大きい1次元物質の特徴を活かした大面積触媒応用等への展開が期待される。
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