研究課題/領域番号 |
19K15395
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
石黒 康志 法政大学, 生命科学部, 助手 (20833114)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | TaS2 / CDW相転移 / 電気伝導度 / 層数依存性 / 水素吸着 |
研究実績の概要 |
本研究課題であるTaS2のCDW相転移における基板との相互作用および表面吸着分子との相互作用が相転移へ及ぼす影響を調べる予備実験として,基板としてSiO2/Si基板,真空下(10^-4Pa)でのTaS2のCDW相転移の層数依存性を調べた.高温領域(350 K付近)におけるNearly Commensurate CDW (NCCDW) - Incommensurate CDW (ICCDW) 相転移に伴う電気抵抗率およびラマンスペクトルの変化から,転移温度(Tc,avg)と昇温・降温過程で生じる転移温度のヒステリシス(ΔT)を算出して,その層数依存性を評価したところ,層数の減少に伴い,ΔTは減少し,Tc,avgは層数の減少とともに増加する傾向を示した.これらの挙動は低温側の相転移Commensurate CDW (CCDW) - NCCDW相転移の層数依存性とは異なっており,高温側のNCCDW-ICCDW相転移に特有の挙動であることが分かった.ΔTは異なる2つの相間のエネルギー障壁に相当することが知られており,層数の減少に伴いΔTが減少したのは,低次元化に伴い層間相互作用が弱まることで構造変化(相転移)が起きやすくなったためと考えられる.また転移温度Tc,avgについては,低次元化に伴うゆらぎの増加によって,短距離秩序構造であるNCCDW構造の領域が広がるためにTc,avgが高温側へシフトしたと考えられる.この成果をまとめて国際学会で発表し,また国際誌に投稿中である. 次の実験として,表面吸着分子との相互作用がCDW相転移へ及ぼす影響を調べるために,様々なガスを圧力調整しながら導入し,その雰囲気下で温度制御しながら電気抵抗率を測定できる真空チャンバーを組み立てて,まずは水素ガス雰囲気下でのTaS2のCDW相転移挙動を電気抵抗率変化から評価中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題の予備実験としてのCDW相転移の層数依存性の成果をまとめる作業(データ解析や論文執筆)に当初の予定よりも時間がかかってしまい,計画よりも少し遅れている.当初の計画では,CDW相転移の表面吸着分子との相互作用,またはCDW相転移と基板との相互作用についてある程度実験結果を出す予定であったが,現在は表面吸着分子との相互作用について実験を始めてデータを取り始めた段階である.ただし,時間を要するガス雰囲気下での評価装置の組み立てはすでに完了しているので,これから実験を進めて当初の計画に間に合わせていく予定である.
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今後の研究の推進方策 |
次年度はTaS2のCDW相転移挙動へ表面吸着分子との相互作用が及ぼす影響を調べるため,様々なガス雰囲気下での電気抵抗率評価を行っていく.まずは水素ガス雰囲気下で実験し,予備実験で得られている真空下での転移温度(Tc,avg)や昇温・降温過程で生じる転移温度のヒステリシス(ΔT)が水素雰囲気下ではどう変化するのかや,NCCDW相とICCDW相で水素との反応性が変化するのかを調べる.NCCDW相とICCDW相ではTaS2の電子状態も異なるため,水素分子との反応性にも違いが出ることが考えられる.水素で調べたあとは,炭化水素やAr,H2Oなどで調べる予定である. 様々なガス雰囲気下で実験し,表面吸着分子との相互作用がCDW相転移へ及ぼす影響を解明したあとは,基板との相互作用について調べる実験を行う.具体的には,現在は基板としてSiO2/Si基板を用いているが,基板表面のSiO2に大気中の水分子が吸着しやすく,吸着した水分子とTaS2との相互作用の影響が含まれている可能性がある.水分子の影響を除去するために,基板を疎水性の高分子膜(パリレン)でコーティングし,これを用いて未処理基板と同様に評価することで基板との界面に存在する水分子がCDW相転移挙動へ及ぼす影響を考察する.
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次年度使用額が生じた理由 |
実験で使用する真空蒸着装置の消耗品費として予定していたが,今年度は予定より消耗しなかったため,次年度に真空蒸着装置の消耗品費として使用予定である.
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