昨年度に行ったTaS2の水素ガス吸着前後の電気伝導性変化に関する研究について,さらにその結果を検証するためにICCDW相とNCCDW相の各相において水素ガス吸着前後のラマンスペクトル測定を行った.いずれの相においても,水素ガス吸着前後でTaS2由来のラマンピークの強度は変化せず,このことから水素吸着前後においてTaS2の化学構造的な変化は起きていないことが確認された.これは昨年度に行った電気伝導度測定の結果で脱離後はまたもとの電気伝導度に可逆的に戻る現象と対応している.また,水素ガスの吸脱着を繰り返す中で,初期吸着のときのみラマンスペクトルのベースラインが変化することが確認された.このベースラインの変化は以前の研究でTaS2の電子構造変化に起因することが分かっており,本研究においても水素ガスの初期吸着のときのみTaS2に電子構造変化が起きていることが示唆される.電気伝導性変化の実験で,水素吸脱着の速度が初期吸着とそれ以降の吸脱着では異なることも,この電子構造変化が原因と考えられる.これらの結果をまとめて現在論文を執筆中である.TaS2への水素分子吸着による電気伝導性変化を調べた研究の報告例はなく,今回の成果が表面分子吸着がCDW相転移へ及ぼす影響の解明につながることが期待される.また今回の成果で材料の電子構造が分子吸着に大きく影響することが分かったため,今後は別の材料でも電子構造を制御してその表面への分子吸着の影響を調べていく予定である.
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