研究課題/領域番号 |
19K15404
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研究機関 | 一般財団法人ファインセラミックスセンター |
研究代表者 |
佐々木 祐生 一般財団法人ファインセラミックスセンター, その他部局等, 研究員 (80808668)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | グラフェン / CVD / In-situ観察 |
研究実績の概要 |
グラフェンサンドイッチを作製するにあたり、高結晶性なグラフェン単層膜の化学気相成長(CVD)法による合成条件の検討およびサンドイッチ作製手法の検討を行った。さらに六方晶窒化ホウ素(h-BN)のCVD合成の準備を進めた。ここでは研究実績の一例としてグラフェンCVDの条件検討について記す。グラフェンCVD合成では銅箔を触媒とすることで高品質な単層グラフェンの合成が可能であり、この時のグラフェンの結晶方位は銅箔表面の結晶面に強く依存することが知られている。これまでの自身の研究で水素雰囲気による反応前加熱が単結晶的な銅箔表面を構築できることが分かってきたが、グラフェン同士の緻密なバウンダリー形成には比較的長い反応時間を要していた。反応時間が長くなるにつれて、余剰な核形成や核成長が起きることで核周辺に局所的な多層化が見られ、また反応チャンバーである石英管からのコンタミが深刻な問題になっていた。そこで今回、九州大学吾郷教授らによって報告されたニッケルと銅を重ねる手法を取り入れ、銅箔の上にニッケル箔を乗せることで、ニッケルによる余剰炭素の吸収を狙った。その結果、高い結晶性を保ちながらも均一な単層グラフェンの合成に成功した。また銅箔の表面にはグラフェンが生成せず、裏面に生成することになるため、石英管からのコンタミが減少した。加えて、これまでのCVD合成ではグラフェンは銅箔の両面に生成し、使用前に片側のグラフェンを除去する操作を行っていたが、本手法では片側のみにグラフェンが生成するため除去も不要となった。これは操作が一つ減っただけではなく、除去しきれずにグラフェンが残る、エッチング液や銅箔片が残ったグラフェンに挟まれるといった問題が起きにくくなることで、サンドイッチなど後続の実験に使用可能なグラフェン収率が向上した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
CVDグラフェンの高品質化やスペーサーを含むグラフェンサンドイッチ作製法の開発など、液中反応の直接観察に向けた基盤技術が整ってきた。特に高結晶性かつ高収率なグラフェン合成法は、グラフェンの転写を繰り返す操作を要する本研究の目標達成には必要不可欠であり、グラフェンサンドイッチの作製法の検討を進めながら条件検討は続ける予定であった。グラフェンCVDの条件検討は当初の予定通り引き続き行うが、今回確立した手法は今後の実験に十分耐えることが予想され、残る高結晶性h-BN単層膜のCVD合成条件の検討とグラフェンサンドイッチ作製およびIn-situ反応観察に注力できる。グラフェンのみによるサンドイッチ作製手法は、すでに昨年度確立した手法が再現性も良く、これをh-BNにも採用する予定であるため、h-BNのCVD合成条件の検討が残る主な課題となる。また、仮に採用予定の手法が困難であったとしても以降の工程に支障が出ないよう、グラフェンのみによるサンドイッチ作製法は現在も引き続き最適化を進めている。現在はグラフェンと比較して膜質が悪くなりがちなh-BNを安定して挟む方法として、銅箔上のh-BNへ直接グラフェンを乗せる手法を検討している。 本年度の問題点として、グラフェンCVDに時間を割きすぎた点が挙げられる。非常にCVDグラフェンの結晶性が向上したことは良かったが、グラフェンサンドイッチ試料の試作に大量に使用し、その分の生産に追われた。その結果、同一のCVD装置に配備するh-BN合成ラインの増設に遅れが生じた。ただし、当初よりグラフェンサンドイッチ作製法の検討を進めながらh-BNの合成条件最適化を進める予定であったため、ここで生じた遅れは十分吸収可能な範囲に収まっている。 以上のことから、本研究はおおむね順調に進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まずCVD装置のガスライン増設とh-BNのCVD合成条件検討を行う。合成条件の検討項目は以下の通り。1. 原料物質であるアンモニアボランの加熱温度、2. アンモニアボラン量、3. バッファーガス量、4. バッファーガス混合比率(アルゴン:水素比)、5. 反応時間、6. 反応温度、7. 触媒となる金属箔。このうち、6、7はそれぞれ1055度、銅箔に固定し、主に3、4を変化させながら本CVD装置におけるh-BNの成長傾向をつかむ。必要に応じて1、2を調整しつつ、最後に5の反応時間を最適化してh-BNの被覆率を確保する。文献調査などによってh-BNの粒界形成に寄与する諸反応が見つかった場合はこれを取り入れ、7の触媒金属や原材料であるアンモニアボランを変更も視野に入れながら条件検討を進める。 また、これまでと同様にグラフェンのみのサンドイッチ作製法の検討を進めながら、順次合成したh-BNの高効率な転写方法についての検討を進める。一般的なh-BNの特徴として、グラフェンと異なり粒界構造が脆くなりがちである。これは炭素のみからなるグラフェンと異なり、ホウ素と窒素から形成されるh-BNの粒子は銅111面上において2方位存在し得ることに由来している。単一粒子の超成長以外では必ず2方位の粒子が衝突し、結合の弱い粒界構造を形成する。このため、グラフェンサンドイッチ作製で使用するような架橋構造はh-BNの単一膜では難しく、収率が確保できないと予想される。そこで、現在のサンドイッチ作製法を改良し、スペーサー付きのグラフェンをh-BNに積層する形でサンドイッチ構造を作成していく新しい手法の開発を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
翌年度に使用予定の使用期限のある消耗品購入の支出にあてるため。 翌年度はグラフェンサンドイッチ作製条件の検討が本格的に始まり、それに伴いCVDの稼働頻度も上がり、消耗品費が増大することが予想される。
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