今年度は六方晶窒化ホウ素(h-BN)とグラフェンの複合膜であるBCNの合成条件の最適化とそれを利用したALDRによる化学反応の電子顕微鏡観察を試みた。 まず、化学気相成長法(CVD法)によってニッケル箔を乗せた銅箔表面にh-BNを合成し、グラフェンを連続合成した。これによって銅箔上にアイランド状に生成したh-BNドメインをパッチワークのようにグラフェンが補修したBCN膜を得た。TEMグリッドへ転写した試料のTEM観察の結果、BCN膜は広い範囲でほとんど損傷なくTEMグリッド上の支持膜を架橋している様子が確認された。また、転写による膜の破れがないBCN膜に対して直径10 nm程度に収束した電子線照射を30秒間行ったところ、照射領域において開孔が認められた。 このBCNに0.05 M塩酸をスプレー噴霧し、グラフェン付きのTEMグリッドに対して転写して1層目のサンドイッチ構造を作成した(試料A)。さらにもう一枚のグラフェンに0.05 M水酸化ナトリウム水溶液を噴霧し、試料Aに対して転写することで2層のサンドイッチ構造を有するALDR(試料B)を作成した。 試料BのTEM観察の結果、グラフェンとBCNの異なる2つの層間にそれぞれ液だまりが形成されていることが分かった。続いて隔膜を開孔するため、電子線を収束した。その結果、照射領域に大量のコンタミネーションが認められ、サンドイッチ内部の情報が埋もれてしまったため、開孔の確認には至らなかった。 本研究では、電子顕微鏡による化学反応の開始の瞬間を捉えるには至らなかったものの、BCNの採用によるALDRの作成や電子線によるBCNの開孔は確認できた。今後さらなる検討によって電子顕微鏡による化学反応の開始の瞬間を捉えることも十分期待できる。また、ニッケル箔を採用したグラフェンやBCNのCVD合成法や転写法などは他の研究への応用も期待できる成果である。
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