研究課題/領域番号 |
19K15405
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
近藤 裕佑 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 和泉センター, 研究員 (30470397)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | a-C:H / 炭素系薄膜 / 光学薄膜 / 赤外線反射膜 / 非周期構造 / 構造最適化 |
研究実績の概要 |
太陽光赤外線の広帯域な遮蔽・集光用途や各種の赤外線センサーの高機能化のために、赤外線領域の光学特性を自由に制御できる薄膜コーティング技術が求められている。しかし、既存の赤外線領域の光学材料は耐久性に乏しく、光学定数を自由に制御できる材料がない。そこで、本研究ではこれらの課題をオールカーボン積層膜で解決する。カーボン薄膜は耐久性の高さに加え、成膜条件の調整により光学定数を一定の範囲内で調整することができるという特徴を持つ。しかし通常の光学干渉膜としてカーボンを代替しても光学設計の自由度が低く実用性が低い。そこで新規な非周期・超多層積層構造を用いて実用的な赤外線フィルターを設計し製作を行う。 本研究でカーボン薄膜の作製に使用するプラズマ支援気相成長法は、プラズマ源と基板を分離することで高密度プラズマを基板へのダメージを低減し製膜できるが、光学定数値に関するデータが少なかった。そこで初年度は、単層膜の成膜条件と光学定数値の関係について調査した。その結果、以下のことが明らかになった。 カーボン薄膜の光学定数値は基板パルスバイアスの周波数とDuty比の増加に伴い、共に増加した。また、断面をSEM観察するとカーボンの膜質差に起因する濃淡が確認された。これを分光エリプソメーターにより評価したところ、光学定数に傾斜構造が確認された。また、基板温度の上昇に伴い、屈折率の低下と消衰係数の増加が確認された。基板温度上昇の過程でsp3C-C結合成分の減少とsp2C=C結合成分の増加が確認された。100層程度の積層試料を断面SEM観察したところ、平滑な積層面が形成されており、光学測定の結果から光学界面として機能していることが確認された。今後、更に製膜時の基板温度とパルスバイアス制御を行い、実用的な赤外線フィルターの試作を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の目的は、プラズマ支援気相成長法を用いて作成されるカーボン積層膜により耐久性が高くかつ周期構造や準周期構造では作製できない広帯域の高反射率の光学膜の設計及び製作を行うことである。研究遂行に付随する技術的な目標としては、①高速で効率的な設計プログラムの作成と②数百層程度のカーボン膜の積層技術開発である。 本研究でカーボン薄膜の作製に使用するプラズマ支援気相成長法は、プラズマ源と基板を分離することで高密度プラズマを基板へのダメージを低減し製膜できるが、光学定数値に関するデータが少なかった。そこで初年度は、単層膜の成膜条件と光学定数値の関係について調査した。その結果、以下のことが明らかになった。 カーボン薄膜の光学定数値は基板パルスバイアスの周波数とDuty比の増加に伴い、共に増加した。また、断面をSEM観察するとカーボンの膜質差に起因する濃淡が確認された。これを分光エリプソメーターにより評価したところ、光学定数に傾斜構造が確認された。また、基板温度の上昇に伴い、屈折率の低下と消衰係数の増加が確認された。基板温度上昇の過程でsp3C-C結合成分の減少とsp2C=C結合成分の増加が確認された。100層程度の積層試料を断面SEM観察したところ、平滑な積層面が形成されており、光学測定の結果から光学界面として機能していることが確認された。 以上、①の目的の設計プログラムの作成を行い、100層の製膜試作が完了した。②の目的の数百層程度のカーボン膜の積層技術開発について、その基礎データとなる積層時の製膜雰囲気の影響について定量的な知見が得られた。以上から、本研究はおおむね順調に進展していると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
プラズマアシスト製膜装置を用いて、光学定数値の異なるカーボン膜を作製し、基板温度と製膜雰囲気の光学定数値への影響をより広範囲に評価する。また、単層膜および積層膜の各々について、機械的特性、耐久性について評価する。C2H2、CH4、Ar、H2の原料ガスの割合および、基板バイアスと基板温度を変化させた場合の影響について評価する。膜中のsp2C=C結合、sp3C-C結合割合の評価と光学定数値の対応を評価する。これらから、機械的特性、耐久性に優れたカーボン膜の製膜条件を探索する。 製膜時のチャンバー内雰囲気の変化に追従する製膜プログラム開発を行うことで、製膜時に安定させることが難しい基板温度の上昇の影響を低減する。 膜厚設計のプログラムを更新する。実際の製膜条件を考慮し、一定以下の膜厚層の除去、三種類以上の光学定数値を含む膜など総積層数のより少ない積層膜を実現できるよう設計プログラムを改良する。
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度では新たな課題が見つかったため、主に研究機関の既存設備を用いた実験に注力した。このため計画していた予算に余剰が生じた。課題については概ね解決したため、次年度以降は、研究遂行を行うために当所予定していた予算を使用する。
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