DLC膜の赤外線領域の光学材料への活用を目的として、まず赤外線領域光学薄膜として広帯域反射膜の設計を行った。次にPIG-PECVD法における、ガス種、製膜時真空度、基板パルスバイアスの影響について調べた。最後に薄膜作製に適した製膜条件を使用して試作を行った。 まず、広帯域反射膜の設計では、各層の膜厚をすべて個別に最適化する独自の最適化プログラムを作成した。設計の結果、完全な非周期構造がえられることが分かった。一方で、膜厚の順序に制限を設けチャープミラー構造とすることでも同等の性能が得られることが分かった。 次に、積層に適したDLC膜の条件探索を行った。分光エリプソメータによる光学定数値評価の結果、基板パルスバイアス値の変化が光学定数値に最も大きな影響を及ぼし、Ar及びC2H2を製膜ガスに用いた場合の屈折率変化が最大であることが判明した。そこで、基板パルスバイアスの制御により実際に光学薄膜として機能する界面が形成されるかを確認した。積層膜の光学シミュレーションによるフィッティングの結果、基板パルスバイアス値の変化により急峻な屈折率変化界面が形成され、想定通りの光学薄膜が作製できることを確認した。 最後に薄膜作製に最適化した手法を用いて100層超の積層構造を試みた。その結果、積層数の増加に伴い膜応力が蓄積されるため膜の応力制御が課題となることが分かった。この解決のために、製膜条件が応力に及ぼす影響について調査し、積層膜中の引張応力膜と圧縮応力膜を適切に配置することで、構造全体の内部応力が緩和させることが判明した。本研究知見、及び開発した製膜技術は赤外線光学薄膜へのDLC応用に向けて大きな成果であったと考えられる。
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