研究課題/領域番号 |
19K15407
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
茂木 俊憲 群馬大学, 大学院理工学府, 助教 (00780602)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脂質二重膜 / 膜タンパク質 / ドメイン / 原子間力顕微鏡 / 単一分子拡散 / 荷電脂質 |
研究実績の概要 |
膜タンパク質の多くはドメインと呼ばれる生体膜内の局所領域に埋め込まれ、生命維持に重要な機能を担っている。多くの膜タンパク質の機能発現には複数の膜タンパク質との会合体形成が必須であり、会合体形成挙動を制御することは創薬研究においても重要な技術である。そこで脂質膜ドメインがどのように膜タンパク質会合体形成に影響するのか、分子レベルでの解明を目指した。本年度は固体基板上に形成した平面人工脂質膜(SLB)にて、原子間力顕微鏡(AFM)観察から、モデル膜タンパク質であるバクテリオロドプシン(bR)の会合体形成に作用する膜構造因子を明らかにすることを目指した。その結果、人工脂質膜内の負荷電脂質(フォスファチジルグリセロール: PG)ドメインから膜タンパク質バクテリオロドプシン(bR)が排斥され、周囲中性脂質(フォスファチジルコリン: PC)領域において結晶形成することが分かった。これは脂質膜と膜タンパク質間の疎水領域サイズの違いと静電的相互作用に由来する。この結果により、bRが三量体ヘキサゴナル結晶を形成する生体膜内ではPGが多く存在するという従来の知見に対して、膜タンパク質と脂質間の相互作用が重要であることを直接的に示すことができた。さらに、ドメインによる排斥効果を分子ダイナミクスの観点から評価するために、蛍光標識bRの一分子拡散解析を行った。その結果、タンパク質一分子の拡散を解析することが可能となり、拡散係数の計算値に近い実験値を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究開始当初は荷電脂質ドメインへと膜タンパク質が優先的に分配されることを予想していたが、逆に荷電脂質ドメインから排斥され、ドメイン外において会合体形成することが分かった。従来計算予測のみだった疎水性マッチング効果と静電的相互作用を考慮することにより、脂質膜と膜タンパク質の相互作用について物理化学的な解釈が可能であることを初めて示した。本結果により、これまで生体膜内においてその会合体および結晶形成についての知見が少なかった膜タンパク質に対して、新たな解析基盤を提供することができる。シミュレーションとの連携については、現在ライブラリを構築中であり、次年度において重点的に取り組む予定である。最終的には、実験結果をシミュレーションパラメーターへと反映することで、膜タンパク質の会合体形成を予測可能な膜タンパク質研究基盤の創出を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の観察結果から、SLB内でのbR結晶構造が周囲脂質種類に依存して変化する可能性が示唆された。一方で、結晶格子点群を求めるには像が不明瞭であったため、測定条件の検討も含めて再度測定を行いたいと考えている。 また、今年度に着目した荷電脂質混合SLBに加えて、疎水鎖長のみが異なる脂質混合SLB内でのbRのダイナミクスを観察することで、ドメイン内外での拡散の違い、及びドメインが膜内分子ダイナミクスに与える寄与を定量的に評価する。また粗視化シミュレーションも行うことで、ドメインとbR間に働く相互作用力を理解し、さらに膜タンパク質の局在性および結晶化に至るまでのプロセスをより詳細に解明する。 ドメインが膜タンパク質会合体形成に与える影響の解明が進むことで、膜タンパク質の機能発現機構を明らかにする研究にも貢献することができる。さらに、膜タンパク質会合体を標的にした新たな薬剤開発や医療分野に大きく貢献できると考える。また、本研究ではこれまでにない高濃度で膜タンパク質を人工膜に組み込み、結晶化することを見出した。今後は脂質膜外では構造決定が困難な膜タンパク質を研究対象として、新たな膜タンパク質結晶作製基盤としての応用が期待される。
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