膜タンパク質結晶を対象にした立体構造解析は膜タンパク質を標的とした創薬の観点から重要である。また、人工脂質膜内にて二次元結晶を形成することで、機能発現や薬剤等との他分子間反応に伴う膜タンパク質構造変化の評価が可能になっているが、その報告例は少ない。そのため、脂質膜内にて膜タンパク質結晶形成に関わる脂質膜の構造因子を明確化する必要がある。 本課題では、固体基板上で物性制御された平面人工脂質膜(SLB)内での一分子拡散計測(SPT)およびAFM計測から、タンパク質の機能構造形成に脂質の分子間力、電荷および膜流動性が寄与することを示した。 また、膜タンパク質はドメインと呼ばれる周囲と異なる分子形状、親水性頭部の電荷、疎水性炭化水素鎖長さを示す脂質分子が集合した、数10 nm~数μmのサイズの局所的な膜構造領域に分配される。本課題では、モデル膜タンパク質であるバクテリオロドプシン(bR)のAM-AFMならびに超解像FM-AFM観察から、人工膜内のドメインならびにbR結晶の直接計測を行った。その結果、結晶化に関わる膜構造因子として脂質頭部電荷ならびに疎水性炭化水素鎖長さが重要であることが分かった。また、膜タンパク質―ドメイン間の相互作用の評価を行うために、bRの蛍光色素修飾条件を最適化し、SLB内単一bRの拡散運動観察(SPT)を行った。 本研究から得た知見に基づき、結晶化が難しい柔軟な膜外領域を持つGタンパク質共役受容体等の膜タンパク質へと対象を拡張し、化合物や薬剤に応答する膜タンパク質の動的構造変化などを検出可能な基盤創出が可能になる。
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