研究課題/領域番号 |
19K15425
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
名和 愛利香 同志社大学, 研究開発推進機構, 助教 (60803161)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | ベシクル / pH勾配 / 化学走性 |
研究実績の概要 |
本年度は、主に研究計画書の【低pH領域で自由エネルギーが低下するベシクルの作製】および【pHの低い方へ移動するベシクルの作製】に関して、酸性溶液に可溶なカチオン性界面活性剤で構成されたベシクルを用いて、酸性領域におけるpH変動に対するベシクルの運動を観察すると、基板にドーム状で吸着しているベシクルの内部体積を維持するような3次元的伸縮運動を見出した。また、両親媒性分子を用いたキャリアの作製を目的として、2種類の高分子溶液の混合割合を調整すると水性二相分離による水中水滴が形成されることを利用し、その界面にのみ吸着するようなオレイン酸の濃度を見出すことで、球形カプセルを作製した。このようなカプセル周辺のpHを変動させ、オレイン酸および球形カプセルの挙動を観察した結果、水中水滴の周りに吸着しているオレイン酸が高pH側に集まる様子が観察された。また、水中水滴は内部対流を発生させながら、低pH側に向かって移動した。pH勾配下におけるオレイン酸系ベシクルの様々な自律運動はオレイン酸が塩基性水溶液に可溶であることに起因していると考えられる。したがって、水滴上のオレイン酸は熱力学的な泳動によって移動し、これにより内部対流が発生したと考えられる。その結果、このような球形カプセルが低pH側に向かって移動することを見出した。このように、低pH領域において自由エネルギーが下がるような挙動を示すベシクルや球形カプセルを作製することができた。また、オレイン酸系ベシクルのpH勾配下における泳動の駆動力を定量的に評価した。これらの結果は本研究の目的である化学走性を実現するための普遍的な物理や方法論の獲得のための重要な成果であると言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究計画の【低pH領域で自由エネルギーが低下するベシクルの作製】に関して、用いた界面活性剤の予期せぬ物性を確認した。この界面活性剤を用いて酸性の水溶液を作製し、溶液のpH変化を測定すると、自発的に水溶液中のpHが変化していることが分かった。したがって、この界面活性剤を用いたベシクルの挙動は外部から与えられたpH変動に限るものではないと考えられ、使用した界面活性剤や同じ官能基を持つ界面活性剤自体の性質も調査する必要があると考えられる。そのため、実験で用いた界面活性剤によるベシクルの3次元的伸縮運動の運動メカニズムの解明には至らなかった。一方、【pHの低い方へ移動するベシクルの作製】では、低pH領域で溶解する物質ではなく、高pH領域で溶解する界面活性剤を使用したにも関わらず、水性二相分離による水中水滴を用いて作製した球形カプセルが低pH側への移動が認められ、運動メカニズムの一部に関しても新たな知見を得ることができた。 このような観点から、本研究課題の進捗状況をやや遅れているとみなした。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画で示した内容に加えて、カチオン性界面活性剤を用いたベシクルの挙動のメカニズムを解明するために、この界面活性剤を用いた水溶液中の自発的なpH変化の要因を調査する。pH勾配に対する球形カプセルの挙動についてもメカニズムの解明に向けて、使用する化学物質を変化させるなど、実験系などに関する詳細な検討をおこなう。 また、研究計画にある【化学走性によるベシクルの自律運動が能動輸送機能の効率に与える影響の検討】に関して数理モデルの立式を試みていく。
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