研究課題
磁性体を含んだ薄膜面内に電流を印加することによって薄膜垂直方向に流れるスピン流を作り、磁性体にトルクを与えることができる。その「スピン軌道トルク」の大きさは磁性体の磁化のダイナミクスを計測することによって定量的に評価することが可能である。本年度は電流を印加しながら磁化ダイナミクスを計測するためのpump-probe時間分解計測光学系ならびにマイクロ波電流を用いた計測装置の構築を行った。2テスラの高磁場を任意の磁場角度で印加できるpump-probe計測光学系に電流印加可能なサンプルホルダを組み込み、スピン軌道トルク検出を試みた。しかしながら2テスラの電磁石を用いた光学系ではレンズとサンプルの距離が離れておりスポットサイズを絞ることができないという問題があったため、電流密度を大きくすることができなかった。よって2テスラの電磁石を用いた計測光学系では系統的なデータを得ることができなかった。一方でスポットサイズを1マイクロメートル程度に絞れる対物レンズを用いた顕微計測光学系では、大きな磁場を印加することができないものの電流による系統的な磁化ダイナミクスの変化を観測することができた。また同時にマイクロ波電流を用いた計測系も立ち上げ、スピン軌道トルクを計測することが可能になった。構築したマイクロ波電流の計測系によって、いまだかつて調べられていなかった金属ガラスのスピン軌道トルクの評価をすることができた。強磁性体1/非磁性体/強磁性体2の三層構造における強磁性体がつくるスピン流の大きさに関する評価も行った。
2: おおむね順調に進展している
本年度はスピン流、スピン軌道トルクを検出するためのマイクロ波電流を用いた測定光学系の構築ならびにスピン軌道トルクの評価をすることができた。また顕微pump-probe計測光学系を用いた新規スピン軌道トルク計測手法も確立することができたため、順調に進展していると言える。
これまでの研究で困難であることが分かった点は以下である。・2テスラの高磁場電磁石を用いた計測光学系ではスポットサイズを絞ることができずに、電流密度を大きくできないため計測が困難である。・大きな電流を加えるとジュール熱の効果が発生する。・レーザー、光学計測系の長時間の安定性があまりないため、小さい変化を検出するような長時間を要する計測は困難である。これらの点から今後の方策としては以下の点が考えられる。・顕微鏡を使った光学系でサブマイクロメートルの大きさの素子での測定・ジュール熱の効果を抑えるために、パルス電流を用いた測定の検討・光スイッチを使うことによって光パルス電流を作り、光パルス電流誘起のスピン軌道トルクの観測・電流に対する磁化ダイナミクス変化を検出するための交流電流を用いたロックイン検出
すべて 2020 2019
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件) 学会発表 (8件) (うち国際学会 4件、 招待講演 3件)
Applied Physics Express
巻: 13 ページ: 053002-1 5
10.35848/1882-0786/ab8742
Physical Review Applied
巻: 13 ページ: 044036-1 15
10.1103/PhysRevApplied.13.044036
Applied Physics Letters
巻: 115 ページ: 132402-1 5
10.1063/1.5116058