研究課題
2019年度の主な成果は、分子/金属界面の高効率スピン流-電流変換現象の実証である。分子スピントロニクスは、有機分子を利用した新奇スピン機能を実現する技術分野である。スピン流-電流変換はスピン流の電気的検出を可能にするため、スピントロニクスの重要な要素技術の一つである。しかし、分子を利用した高効率な変換現象はこれまでに報告されていなかった。その理由はこれまでの分子スピントロニクスの範疇では、軽元素から構成される分子の大きなスピン拡散長が主として着目されてきたことだと考えられる。本研究では重元素を含む分子に着目することで、これまでに欠けていた、分子を用いた高効率スピン流-電流変換の実現を狙った。本研究では2019年度、鉛(II)フタロシアニンと銅接合界面を設計して高効率なスピン流-電流変換を実証した。作製した分子/金属界面に対して垂直にスピン流を注入すると、界面並行方向に電流が生じた。その変換の効率は、ビスマス/銀界面等の無機物質の異種接合界面で報告されている効率に匹敵することが分かった。さらに、金属表面上の鉛(II)フタロシアニン分子の膜厚を変化させて実験を行った。非常に興味深いことに、この変換機能は、銅表面の分子膜厚が鉛(II)フタロシアニン分子1層の時に最大化されることを見いだした。これは、金属表面上の分子の吸着姿勢が、その効率を決める重要な因子あることを示唆している。本研究により、高効率な分子スピントロニクス素子の設計指針が得られた。
1: 当初の計画以上に進展している
鉛(II)フタロシアニンと銅接合界面でのスピン流-電流変換効率が、無機物質間界面の変換効率に匹敵することが示された。分子と金属の組み合わせは無数にあるため、分子/金属界面が、当初予想していた以上の非常に大きな可能性を秘めていると考えられる。走査型トンネル顕微鏡による分子/金属界面の観察によると、フタロシアニン分子が銅表面とおよそ並行に吸着している分子単層膜を作製したときに、変換効率が最大化される。当初の計画では分子膜厚に注目していたが、変換効率の大小を決める重要な因子として分子の吸着構造が重要であることがわかり、より詳細な設計指針を立てることができた。これらは当初の計画を上回る進捗である。
初の計画通り、分子/金属界面にゲート電圧を印加して変換効率の制御をおこなう。また、分子/金属界面由来のスピン流による、スピントルク磁化反転への応用を検討する。
研究を遂行する上で必要な励磁用電源が故障したために、使用計画を変更して励磁用電源を新規購入したため。
プレスリリース
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NANO LETTERS
巻: 10 ページ: 7119-7123
10.1021/acs.nanolett.9b02619
https://www.issp.u-tokyo.ac.jp/maincontents/news2.html?pid=8616
https://www.u-tokyo.ac.jp/focus/en/press/z0508_00069.html