研究課題/領域番号 |
19K15434
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
上田 浩平 大阪大学, 理学研究科, 助教 (60835289)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 5d遷移金属酸化物 / スピン流 / スピンホール効果 / スピントロニクス / 界面物性 / 薄膜 |
研究実績の概要 |
電流による磁化制御は次世代磁気メモリ開発に向けた重要な課題となっている。中でも、電子のスピン角運動量の流れであるスピン流を用いた磁化制御が着目されており、強いスピン軌道相互作用を有するPtやTaのような5d遷移金属がスピン流研究の舞台となってきた。近年、フェルミ面近傍の状態密度が5d軌道だけで支配されている5d遷移金属酸化物群が強いスピン軌道相互作用を担うために注目を浴びている。そのため、状態密度が5dと6s軌道で支配されている従来の5d遷移金属とは、異なるスピン流物性が期待される。本研究では、同酸化物群であるイリジウム酸化物 (IrO2)に着目し、スピン流物性の理解を深めることを目指す。 本年度はi) スピン流物性測定装置の立ち上げ、 ii) アモルファスIrO2におけるスピン流物性の評価に取り組んだ。 i)に関しては、外部磁場印加中に試料を回転させることでホール電圧の角度依存性を測定できる機構を立ち上げた。それにより、電流-スピン流変換効率やスピン拡散長のようなスピン流物性を測定する基盤を構築した。ii)に関しては、2層膜デバイスPy/IrO2と参照試料Py/Pt、Py/Irにおけるスピン流物性を調査した。その結果、IrO2がスピン流生成源になることが確認された。またIrO2の膜厚依存性から、定量的に電流-スピン流変換効率が評価され、Ptの変換効率と同等の値を示し、Irより7倍ほど大きな変換効率を示すことが明らかになった。この結果は、5d遷移金属とは異なるIrO2の特異な電子構造がスピン流物性に影響を与えていることを示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
大体の試料作製と測定環境の立ち上げは完了し、2層膜デバイスのスピン流物性の定量評価が可能となった。PtとIrを参照試料としての比較実験を行い、アモルファスIrO2におけるスピン流物性の知見が得られたため、現在論文執筆を行っている。一方で、新たにスピン流物性測定の立ち上げ作業や、Py以外の強磁性CoFeBを用いてのスピン流物性の開拓を行っている。申請書に記載されている研究計画の2/3以上の研究が遂行されていることを踏まえ、本研究は当初の計画以上に進んでいると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画通りスピン流物性の評価を温度依存性に展開させる予定である。また新たに、結晶構造に着目し、単結晶IrO2や他の導電性を示す5d遷移金属酸化物におけるスピン流物性を開拓していく研究にも注力予定である。
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