研究課題/領域番号 |
19K15438
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
西川 浩矢 国立研究開発法人理化学研究所, 創発物性科学研究センター, 特別研究員 (50835519)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 強誘電 / 極性ネマチック / 分極反転 / 巨大分極 / 誘電率 / 光変調素子 |
研究実績の概要 |
近年、申請者らが発見した極性ネマチックは、強誘電応答を示す史上初の強誘電流体である。通常、液体は自発分極を保持できないため強誘電性を示さない。このパラドックスを液晶の観点から実験的アプローチにより明確化することで、強誘電リキッドマターの創成ならびにその特性を活かしたユニークな機能性の探求と応用を目指す。具体的には (1) 偏光顕微鏡、非線形光学による直接観察から流動と誘起トポロジー/誘起分極の相関を理解する。さらに周波数の異なる電圧印加による誘起トポロジー/誘起分極の相関を理解する。(2) 極性ネマチックの粘弾性の物性解析ならびにせん断に伴う時間平均化した誘電率を評価し、さらにこれまでに評価されていないせん断に伴う分極量の評価を試みる。(3) (1)、(2)で得られた知見をもとに強誘電発現メカニズムを流動誘起トポロジーの観点から総体的に解明する。さらに、強誘電リキッドマターの探究ならびにそれを用いた素子の開発を目指す。R1年度では極性ネマチックの巨大分極特性を積極的に用い、光で静電容量を劇的に可変することのできる光変調キャパシター(PVC)の開発に成功した。分極特性の光変調は、UV光(365 nm)とVIS光(400 nm)の交互照射における偏光顕微観察、誘電率測定、XRD測定、DSC測定により評価した。以上の評価方法により、作製したPVCはUV光(365 nm)とVIS光(400 nm)を交互に照射することで巨視的な分極状態が劇的に変化し、その結果静電容量を0.34 μF ~7.0 nFの範囲で迅速に変調することが可能であることが明らかとなった。さらに、本PVCを接続した電子音波発信器を作製し、PVC部位にUV-VIS光を交互照射することで、可聴周波数領域のほぼ全域をカバーする周波数240 Hz~10.6 kHzの音高(ピッチ)を迅速に光変調することに成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
誘電キャパシターは高電力密度、高耐電圧、高信頼性といった極めて顕著な特徴をもつため、電力系統や電子デバイスには欠かせない材料となっている。誘電キャパシターの静電容量は誘電率に比例するため、理論上、高誘電材料を用いればμFオーダーの大静電容量化が実現しうる。しかしながら、無機結晶、有機結晶、ポリマーといったどの材料分野においても静電容量を可逆的にかつ劇的に変調するような材料は存在しない。 そこでR1年度は、10000超の比誘電率(誘電異方性)を有する極性ネマチックをベースとした光変調素子の開発を行った。光変調のために光応答性アゾ化合物を適切な濃度で配合した。偏光顕微観察-誘電緩和スペクトル同時測定により、混合物が極性ネマチックを示すことを確認した。この極性ネマチックにUV光(365 nm)およびVIS光(400 nm)を交互照射したときのUV-Visスペクトル変化を測定し、迅速かつ可逆的にスペクトルが変調することを確認した。UV-VIS光照射前後での偏光顕微観察-誘電緩和スペクトル同時測定、DSC測定、photo-DSC測定ならびにXRD測定を用いて相挙動と誘電率変化の相関を調べた結果、光相転移挙動により巨視的な分極状態が変化し、それに伴う分極特性(比誘電率、静電容量)が劇的に変化することが明らかとなった。すなわち、0.34 μF ~7.0 nF(比誘電率変調範囲14000~200相当)の範囲で迅速かつ可逆的に変調できる光変調キャパシター(PVC)の開発に成功した。 また、本素子の有用性を見い出すため、PVCを組み込んだ電子音波発振器を作製した。PVC部位にUV-VIS光を交互に照射することで可聴周波数領域のほぼ全域をカバーする周波数240 Hz~10.6 kHzの音高(ピッチ)変調に成功した。本研究は論文投稿段階にある。以上のように研究は順調に進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
R1年度は極性ネマチックの巨大分極を積極的に用いた素子として光変調キャパシターの開発に成功した。同様に巨大分極ならではの高機能を付与した素子の開発に臨むことが可能であるが、R2年度は基礎物性研究に精力を傾ける。すなわち、極性ネマチック内の流動・分極・トポロジーの相関に関する知見を得るための基礎的な研究を行う。この研究では、液晶の流動に伴うトポロジー変化が分極を支配すると予想されるため、流動に伴うトポロジー変化を偏光顕微鏡で観察し、さらに誘起分極挙動をSHG顕微鏡で観測する。はじめに、液晶の一方向への流動を実現し、それを顕微鏡(偏光顕微、SHG顕微)で観察するための系を構築する。この系では、流動場となる流路はマイクロ流路を用い、流体制御が可能なガラス製のマイクロ流路を採用する。このマイクロ流路とマイクロ流路ポンプを接続し、液晶を一方向に流動させる系を構築する。液晶の流動速度はマイクロポンプで制御する。この研究では、流動に伴う誘起トポロジー/誘起分極の相関を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、極性ネマチックの強誘電発現メカニズムの解明と強誘電リキッドマターの探究とその応用展開を目指し、基礎・応用の両面から研究を行うものであり、次のに研究項目にならい遂行するものである。(1) 流動に伴う誘起トポロジー/誘起分極の相関解明(R1年度)、(2) 流動に伴う粘弾性と誘起トポロジー/誘起分極の相関解明(R2年度)、(3) 強誘電発現メカニズムの解明と素子開発(R3年度)。このうち、R1年度に課題(3)を優先的に遂行したため、大幅に次年度使用額が生じてしまった。R2年度では予定通り課題(1)を行い、次年度使用額を速やかに消費する予定である。なお、次年度使用額は課題(1)に掲げている通りマイクロ流路、マイクロ流路ポンプの開発購入資金として充てがう予定である。
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