近年、申請者は強誘電性ネマチック(NF)材料において破格の分極特性を観測し、その巨大分極発現メカニズムを種々の実験結果から総体的に理解する研究を行ってきた。本研究は、NF材料の示す創発物性や機能性を研究対象とし、(1) 偏光顕微鏡、非線形光学による直接観察を駆使した流動と誘起トポロジー/誘起分極の相関の理解、(2) 極性ネマチックの種々の流動ー分極特性評価、(3) 課題(1)、(2)を機軸としたメカニズムの解明およびそれらを用いた素子開発を目的とする。実際には目的を少し発展させ、(1)のトポロジーに着目した新規極性らせん構造(A)の創造と(3)の目的であった素子の開発(B)を行った。いずれも並行して実験を遂行した。 課題(A)では強誘電ネマチックにキラル剤をドープすることで極性らせん構造を誘起することに成功した。興味深いことに、本極性らせん構造に電場を作用させると初期状態の半ピッチ構造が全ピッチ構造に変化することが明らかになった。これは極性とらせん構造のカップリングによって、半ピッチ構造が禁制になったことが原因である。さらに、電気光学特性によってらせん構造の変化速度を評価したところ、17マイクロ秒の高速スイッチングを示すことが分かった。 課題(B)では、近年注目されている脱着可能な スマート材料のためのウェアラブルデバイスを考慮し、フォトコンデンサ(PVC)の開発に取り組んだ。本研究では緑色光(530 nm)と青色光(410 nm)で光異性化が実現する新規フッ素アゾベンゼンを分子設計・合成した。これをNF材料にドープすることにより、静電容量が0.3 μF~7 nFの範囲で迅速に光大変調可能な非UV光駆動型PVCの開発に成功した。驚くべきことに熱、光、電気などの外部刺激応答型の誘電体群と比 べると、新型PVCの変調能は99.5%以上の破格の性能を持つことが分かった。
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