研究課題/領域番号 |
19K15440
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
神永 健一 東北大学, 材料科学高等研究所, 助手 (50831301)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 希土類単酸化物 / パルスレーザ堆積法 / ヘテロエピタキシー / 超伝導 |
研究実績の概要 |
今年度はPLD法で作製したLaO/EuOヘテロエピタキシャル薄膜を用いて、LaOのスピン拡散長やスピンホール角などのスピン特性の評価を行なうとともに、本計画が主目的とするEuO/LaO/EuOの三層スピンバルブ(SSV)構造の作製に取り組んだ。 まず、効率的なスピン流の生成・電流変換に不可欠な、清浄な接合界面をもつ二層ヘテロエピタキシャル薄膜の作製条件の最適化を行なった。精密な酸素分圧制御の結果、1単位格子オーダー以下の界面・表面粗さをもつ理想的なヘテロ接合が実現した。下部層のEuOがバッファー層としても機能することで、単層成膜時に比べLaOの結晶性が大幅に改善した。そこで、得られた高品質なヘテロ薄膜を用いて、実際にスピン特性の評価を行なった。評価には当初予定していた強磁性共鳴スペクトル測定ではなく、スピンホール磁気抵抗測定を用いた。この測定では、強磁性絶縁体のEuO下部層から界面で注入されたスピン流が、LaO層でスピン軌道相互作用により電流に変換されることで生じる磁気抵抗変化(スピンホール磁気抵抗)の印加磁場角度依存性を調べる。今回、LaO/EuOヘテロ薄膜を用いることで、酸化物ヘテロ薄膜で初めて明瞭なスピンホール磁気抵抗の観測に成功した。スピンホール磁気抵抗のLaO層膜厚依存性からLaOのスピンパラメータを評価したところ、既報のIrO2などの貴金属酸化物と同程度の値を示すことがわかった。 スピン特性の評価と並行して、SSV構造の形成を試みた。三層ヘテロエピタキシャル薄膜は実現できたものの、期待していたゼロ抵抗スイッチングの発現には至らなかった。次年度以降、上下二層のEuO層の膜厚や成膜条件のさらなる最適化により、ゼロ抵抗スイッチングの観測およびSSV素子の完成を目指す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の今年度計画にあったLaOのスピンパラメータの評価は、スピンホール磁気抵抗測定により達成できたことから、研究計画は順調に進行していると考えられる。今回、LaO/EuOで確立できたスピン特性の評価手法を適用することで、現在進行中のPt/EuOやYbO/EuOなどの様々なEuOヘテロ薄膜のスピン特性に関する知見が得られる可能性が高い。また、現時点でゼロ抵抗スイッチングは観測できていないものの、EuO/LaO/EuOの三層SSV構造の形成自体には成功している。次年度以降、成膜条件や各層の膜厚の最適化により、SSV素子の完成を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
次年度より東北大応用化学専攻松本研究室に助教として異動するため、研究環境が大きく変化する。これまで使用してきたPPMS等の物性評価に関しては、引き続き福村研究室の装置が利用可能である。ただ、異動先の研究室もPLD装置を所有しているが、それをカスタマイズし従来使用してきたPLD装置と成膜環境を近づける必要がある。次年度以降、真空計やターゲットなどを新規に購入する予定である。また、LaO/EuOヘテロ薄膜およびSSV素子の作製条件の最適化が再度必要となる。 したがって、当初の研究計画から次年度より遅延が生じることが予想される。一方、当初の計画にはなかったが、異動先の研究室が長年技術を培ってきた真空下でのイオン液体による電気化学測定と、本研究課題を組み合わせることも視野に入れている。具体的には、PLD装置で成膜したEuO薄膜およびLaO/EuOヘテロ薄膜を真空中でイオン液体に浸し、その場電気化学測定を行なう。EuOが強磁性絶縁体であることを利用し、光照射により電気化学的にEuOのスピン制御を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初物品費として計上し購入予定であったロックインアンプなどの測定装置が所属研究室の現有装置で事足りたため、実際には購入に至らなかった。旅費に関しては、材料科学高等研究所からの若手渡航支援として助成金が得られたことと、東京で開催される予定であった春季応用物理学会が新型コロナウィルスの影響で中止になったことが重なり、結果的に科研費からの支出を抑えることができた。 次年度以降、異動先でも本研究を継続するため、異動先の研究室が所有するパルスレーザ堆積装置をこれまでの成膜条件が再現可能なようにカスタマイズする必要がある。当該助成金はターゲットや基板などの新規購入代金やカスタマイズ費用に充てる。
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